覚えておきたい!!ドーピング仲裁ガイド!!

事例2 聞いてないよ…知らないことでドーピング紛争に

解説
事件のあらすじ「いつ、どこで、なぜ?」

イタリアでプレーするサッカー選手のYは、その日、試合終了後のドーピング検査対象となっており、Y自身も自分が検査対象に選ばれていることを知っていました。それにもかかわらず、Yは試合終了後すぐにドーピング検査を受けずに、一旦シャワーを浴びてからドーピング検査を受けに行きました
ドーピング検査の結果、Yからは何のドーピング反応もなく、陰性であると判断されました
しかし、Yが検査員の許可なく行動し、すぐにドーピング検査を受けなかったという行為について、Yは、国内の規則に基づき、国内における規律パネルで1か月の資格停止処分が課されました。さらに、この行為がドーピング検査の拒否行為としてドーピング防止規則違反にもあたる行為であり、2年間の資格停止処分が課されるべきであるとして、世界ドーピング防止機構(WADA)によって、Yはスポーツ紛争仲裁機関に訴えられてしまいました。

くだされた仲裁判断

スポーツ紛争仲裁機関は、検査員が、Yに対して、Yの行為(検査前に検査員の許可なくシャワーを浴びに行く行為)は検査拒否にあたり得ることを事前にYが理解できるように説明していなかったことを重視し、Yの行為はドーピング防止規則違反にあたらないと判断しました。

スポーツ紛争仲裁機関がはたした役割

この事件では、ドーピング検査に至るまでの検査手続において、競技者が、不正行為(検査拒否)を行ったことを理由に、ドーピング防止規則違反として訴えられましたが、スポーツ紛争仲裁機関は、検査手続に不備があったことを理由に競技者の行為は検査拒否にあたらないと判断しました。
ドーピング検査においては、競技者が定められたルールに基づき行動することはもちろんですが、検査を行う側も検査手続を公正に行うことが求められています。また、ドーピング問題は、国や競技の枠を超えて公正さが求められる問題であり、競技者又は検査機関、いずれの手続きの不公正を放置することもスポーツそのものの健全さを損なうことにつながってしまいます。
スポーツ紛争仲裁機関は、競技者やスポーツ団体・検査機関のいずれにもかたよることなく、あくまでも中立的な立場から紛争を解決することで、スポーツ界全体の公正さや公平さを維持する役割を果たすことが求められています。