2010年6月28日(月) | 「スポーツ仲裁規則第20条第2項の「仲裁事案に何らかの形で関与したことがある者及び仲裁事案に利害関係を有する者は、仲裁人になることができない。」との定めについて,当機構としては次の通り解釈をすることにしますので、公表いたします。 この解釈は、具体的な案件において、この文言の解釈に関するかぎり、同規則第4条に基づき、「この規則の解釈につき疑義が生じたとき」に示される「日本スポーツ仲裁機構の解釈」になります。なお、この解釈は、ドーピング紛争に関するスポーツ仲裁規則第23条第2項等における同様の文言の解釈としても妥当します。 問題: 結論: 理由: (a) 文言上、スポーツ仲裁規則20条2項第一文の「仲裁事案に何らかの形で関与したことがある者」に該当する。特に、「何らかの形で」という文言は広く解することを要求する趣旨であると解される。 (b) しかし、同条同項第二文によれば、「仲裁人は、仲裁人としての公正性に疑義を生じかねないと思われる事由があるときは、速やかにこれを開示しなければならない。」とされており、「公正性に疑義を生じかねない」事由があることが問題だという趣旨であって、公正な仲裁人として関与したことはこれには当たらないと解することもできなくはない。すなわち、(a)のような形式論ではなく、結論を導くには実質論が必要であると考えられる。 (c) そこで、実質的に検討をする。実際に生ずるであろう状況を考えると、同じ案件の第1の仲裁で仲裁人なり、第2の仲裁でも仲裁人となったAは、第2の事案で初めて仲裁人となるBに比べて、第1の仲裁手続における審問等を通じてより多くのことを知っており、Bが前提とする事実とは異なる可能性があり、また、Bは、より多くのことを知っているAに依存し、Aの判断に影響を受ける可能性がないとは言えない。 (d) また、第1の仲裁において勝った側は同じ仲裁人に依頼したいと思うことは理解できるが、ということは逆の立場である敗れた側から見ると、3人の仲裁人のうち、最初の段階で既に1名の仲裁人は自分に不利な判断をする可能性が強いと思うことが予想される。 (e) 翻って、効率性の観点からは、第1の仲裁の仲裁人を第2の仲裁でも仲裁とすることは合理的であり、両当事者とも自己が選任する仲裁人を同じ者とすることは、それを禁止する必要はないように思われる(さらに進んで、一方の仲裁人だけの場合も、同じ仲裁人を選定することに相手方当事者が同意すればいいようにも思われる)が、上記の規則20条2項第一文の定めに抵触する者は、たとえ両当事者がその仲裁人就任を合意しても、紛争解決制度としての仲裁の公的性格上、その仲裁人の就任を認めることはできないと考えられ、これは強行法規であると解される。 (f) 以上のこと、特に(a)・(c)・(d)のことから、上記の結論の通り解釈すべきであると考える。 |