仲裁判断(2015年9月28日公開)
申立人 X
被申立人1:公益財団法人 全日本空手道連盟(Y1)
被申立人1代理人:弁護士 篠原 由宏
被申立人2:岸和田市空手道連盟(Y2)
被申立人2代理人: 弁護士 松本 藤一
同 堀 貴晴
同 梅田 綾子
主 文
本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。
1 被申立人岸和田市空手道連盟との関係について、本件仲裁手続を終了する。
2 被申立人公益財団法人全日本空手道連盟に対する(4)及び(5)の申立てをいずれも却下する。
3 申立料金54,000円は、申立人の負担とする。
理 由
第1 当事者の求めた仲裁判断
1 申立人
(1)被申立人岸和田市空手道連盟の申立人に対する平成27年2月1日付け無期限謹慎処分を取り消す。
(2)被申立人岸和田市空手道連盟の申立人に対する平成27年3月22日付け除名処分を取り消す。
(3)被申立人岸和田市空手道連盟の会長、副会長、理事長、副理事長、事務局長、相談役及び名誉会長は、役職を引責辞任し、再就任しない。
(4)被申立人らは、第42回岸和田市空手道選手権大会及び第59回市民体育祭岸和田市春季少年少女空手道選手権大会のパンフレットにおいて、申立人が納得する内容で謝罪広告する。
(5)被申立人らは、第15回全日本少年少女空手道選手権大会の予選である大阪府空手道選手権大会の出場資格選手に謝罪する。
(6)仲裁申立料金は、被申立人らの負担とする。
2 被申立人公益財団法人全日本空手道連盟
申立人の被申立人公益財団法人全日本空手道連盟に対する申立てをいずれも却下する。
3 被申立人岸和田市空手道
(1)仲裁前の申立て
申立人の被申立人岸和田市空手道連盟に対する申立てについて、両者の間には仲裁合意がなく、本件仲裁パネルは仲裁権限を有しないから、本件仲裁手続を終了させるべきである。
(2)申立てに対する答弁
ア 申立人の申立て(1)及び(2)を棄却する。
イ 申立人の申立て(3)から(5)までを却下する。
ウ 申立費用は、申立人の負担とする。
第2 仲裁手続の経過
別紙1記載のとおり
第3 事案の概要
申立人は、処分理由とされている事実がないこと及び適正な手続に基づいていないことを理由として、被申立人岸和田市空手道連盟(以下「被申立人2」という。)の申立人に対する2015年2月1日付け無期限謹慎処分(以下「本件処分1」という。)及び同年3月22日付け除名処分(以下「本件処分2」という。)の取消しを求めるとともに、被申立人2の会長等の辞任及び再就任しないことを求め、さらに、被申立人公益財団法人全日本空手道連盟(以下「被申立人1」という。)及び被申立人2に対し、空手道選手権大会のパンフレットにおいて申立人の納得する方法で謝罪すること、また、大阪府空手道選手権大会の出場資格選手に謝罪することを求めた。
1 当事者
(1)申立人について
申立人は、2015年2月1日まで、岸和田市に本拠を置く空手道場Aの代表を務めていた。Aは、被申立人2に加盟しており、申立人は、スポーツ仲裁規則第3条第2項の「競技者等」に該当する。
申立人は、被申立人2の常任理事、事務局次長の役職にもあった。
(2)被申立人1について
被申立人1は、「アマチュア空手界を統括し、これを代表する団体として、空手道の健全な発達とその普及を図る」こと等の目的で設立された公益財団法人であり、公益財団法人日本オリンピック協会、公益財団法人日本体育協会の加盟団体であって、スポーツ仲裁規則第3条第1項に定める「競技団体」である。
(3)被申立人2について
被申立人2は、申立外大阪府空手道連盟(以下「大空連」という。)に加盟する団体であり、大空連は、被申立人1の加盟団体であって、被申立人岸空連は、スポーツ仲裁規則第3条第1項に定める「競技団体」である。被申立人2に加盟している団体は、15団体である。
2 本件処分等に至る経緯
(1)被申立人2は、2015年2月1日、理事会を開催し、申立人の懲戒処分について審議した。その結果、①明らかな職務放棄と②被申立人2の執行部への承認できない批判文章・発言により被申立人2の会員を混乱させたことを理由として、本件処分1を決定した。もっとも、この理事会には、定足数に満たない13名の出席(書面によるものを含む)しかなかったし、申立人は、招集を受けていない(甲11)。
(2)被申立人2は、申立人に対し、2015年2月1日付け通知書により、本件処分1を通知した。本件処分1の通知書には、申立人だけではなく申立人が代表を務める道場についても、申立人2及び大空連に関する活動の禁止が処分内容として記載されている。また、追伸として、「これに違反した場合や連盟を混乱させるような言動行為を起こした場合は直ちに当連盟から除名することも承認可決された」旨の付記がある(甲4)。
(3)申立人は、被申立人1及び大空連に対し、2015年2月24日付けの内容証明郵便で、本件処分1が、処分手続、処分理由等の面から不当であると問題点を指摘するとともに、上部組織として被申立人2への指導を求める書面を送付した(甲17、甲21)。
(4)被申立人2は、2015年3月22日、理事会を開催した。この理事会では、申立人に対する処分が再度審議され、本件処分2を決定した。
(5)被申立人2は、申立人に対し、2015年3月23日付け通知書により本件処分2を通知した。本件処分2の通知書には、処分内容として「平成27年3月22日をもって除名処分とする。岸空連における一切の資格・権利を剥奪する」と、処分理由として「謹慎処分中に当連盟への容認出来ない批判文書があり、岸空連会員を混乱させ、又、理事会においても会長以下理事の先生方から仰がれたにもかかわらず、全く反省の態度が無く、このまま放置しておくことは今後の当連盟の運営に支障が生じると考えるため」と、追伸として「A代表の申立人が除名処分となったため道場(A)も脱退となる」との記載がされている(甲5)。
(6)申立人は、被申立人2だけでなく、被申立人1を相手方として本件仲裁申立てをした。その理由は、申立人が、被申立人1に対し、2015年2月24日付け内容証明郵便をもって被申立人2の本件処分1及び本件処分2が不当である旨通告したにもかかわらず、被申立人1が被申立人2に対し、何らの指導監督を行なわなかったことは、被申立人2の処分を追認したに等しく、不当であるというものである。
第4 争点
1 被申立人2との間の仲裁合意の有無について
2 本件処分1の有効性について
(1)本件処分2がされたことにより、本件処分1の取消しの利益が消滅するか
(2)被申立人2の連盟規約にない無期限謹慎処分をすることができるか
(3)定足数を満たさない理事会決議に効力があるか
(4)申立人に対する告知・弁明の機会が確保されたか
(5)処分内容に相当性があるか
3 本件処分2 の有効性について
(1)申立人に対する告知・弁明の機会が確保されたか
(2)本件処分1を前提とする処分理由が含まれているかどうか
(3)処分内容に相当性があるか
4 本件スポーツ仲裁パネルが申立て(3)から(5)までについて仲裁判断する権限を有するか
第5 本件スポーツ仲裁パネルの判断
1 仲裁合意について(争点1)
本件仲裁パネルは、別紙2の中間判断のとおり判断したが、大阪地方裁判所は、2015年9月7日、本件スポーツ仲裁パネルには申立人の被申立人2に対する申立てについて、仲裁権限がないとの決定をした(大阪地方裁判所平成27年(仲)第2号)。その理由として、①申立人と被申立人2との間には個別的な仲裁合意がないこと、②被申立人2の連盟規約には、スポーツ仲裁規則第2条第3項に定めるいわゆる自動応諾条項が存在しないこと、③被申立人2は、被申立人1の加盟団体でないから、自動応諾条項を定めた被申立人1の倫理規程第10条が適用されるということはできず、この点を措くとしても、被申立人1の倫理規程第10条は,被申立人1自身がした処分のみを意味することから、同条項を根拠として被申立人2の規則中に自動応諾条項が存在するとみることはできないことをあげている。
裁判所の判断が示されたため、申立人の被申立人2に対する申立てについては、仲裁手続を続行することが不可能であると認められるので(仲裁法第40条第2項第4号)、他の争点について判断することなく、本件仲裁手続を終了し、主文1のとおり判断する。
2 申立て(4)及び(5)について(争点4)
申立人は、被申立人1に対して、謝罪広告を掲載すること、さらには本件紛争に巻き込まれて結果的に予定された大会に出場できなかった選手への謝罪等を求めている。
しかし、スポーツ仲裁規則第2条第1項によれば、スポーツ仲裁は、「スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定について、その決定に不服がある競技者等・・・が申立人として、競技団体を被申立人としてする仲裁申立てに適用される。」と規定しており、仲裁判断の対象は、「スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が行った決定の当否」に限定されている。申立人の(4)及び(5)までの申立ては、競技団体等の行った決定を対象としたものではなく、仲裁判断の対象とはなりえない。
したがって、これらの申立てを却下する。
3 申立料金の負担について
申立料金については申立人の負担とする。
第6 意見
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構は、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、公益財団法人日本体育協会、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の出資により、健全なスポーツの発展に寄与するため、公正中立の地位を有する仲裁人による仲裁により、スポーツ競技又はその運営をめぐる紛争を、迅速かつ公正に解決すること等を目的として2003年に設立されました。
同機構が行うスポーツ仲裁は、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、公益財団法人日本体育協会、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会、各都道府県体育協会及びその加盟もしくは準加盟又は傘下の団体を対象とした制度であり、競技者と競技団体とが敵対し合うのではなく、あくまでも争いを円滑・円満に解決することをその目的としており、アスリートだけではなく、仲裁の相手方となる競技団体にとっても有用な制度とされています。
仲裁制度を利用しない場合、裁判に訴える方法も残されていますが、スポーツやスポーツ団体の争いはそもそも裁判所による紛争解決に馴染まない場合も多く、費用負担の問題や解決までの時間についても問題があり、廉価で迅速な解決を図る制度としてスポーツ仲裁制度が創設されたもので、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構としても、かねてより各スポーツ団体に対し各団体の規約に仲裁受諾条項を盛り込むことを要請しています。
2011年に制定されたスポーツ基本法は、第5条において、スポーツ団体が「スポーツの普及及び競技水準の向上に果たすべき重要な役割に鑑み、基本理念にのっとり、スポーツを行う者の権利利益の保護、心身の健康の保持増進及び安全の確保に配慮しつつ、スポーツ推進に主体的に取組むこと」「スポーツの振興のための事業を適正に行なうため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成すること」「スポーツに関する紛争について迅速かつ適正な解決に努めること」を求めています。また、2019年のラグビーワールドカップ日本開催、翌2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控えて、これからは公的資金が今まで以上に多くのスポーツ界・スポーツ団体等に援助されたり、税制上の優遇措置や公的施設の利用優先等を含めた便宜が図られたりすることが予想されます。スポーツ団体には国内ではもちろんのこと、さらには、国際社会の中でも模範となるようなスポーツ振興や運営がなされることが期待されています。スポーツ団体は、単なる同好の士の集まりではなく、公的性格の強い組織であることについての自覚とそれに相応しい対応が期待されていると考えます。
被申立人2は、仲裁に関する受諾条項が連盟規約にないことを理由としてスポーツ仲裁を受けることを争い、かつ、仲裁受諾を拒否されていますが、そのような対応が上記スポーツ仲裁制度創設の趣旨や、スポーツ基本法の定めた「スポーツ団体は、スポーツに関する紛争について迅速かつ適正な解決に努める」との規定の趣旨に適合しているのか、公的性格の強い組織として相応しい対応かについて、再考されることを希望します。
被申立人2が加盟する大空連が加盟団体の一つである被申立人1についても、前記スポーツ仲裁機構が設けられた趣旨や、スポーツ基本法が規定するスポーツ団体に関する規定の存在、さらにはオリンピック・パラリンピック等の開催を控えた状況に鑑み、加盟する団体、傘下の団体に対して、仲裁受諾条項の導入を含めた各連盟規約の整備、運営の透明性確保、ガバナンスの確立等に向けて強い指導力を発揮されることを強く希望します。
第7 結論
以上のとおり、申立人の被申立人2に対する申立てについては、本件仲裁手続を終了することとし、申立人の被申立人1に対する申立ては、いずれも仲裁判断の対象とはならないので、これらを却下し、申立料金については、申立人の負担とする。
よって、本件スポーツ仲裁パネルは、主文のとおり判断する。
以上
2015年9月24日
スポーツ仲裁パネル
仲裁人 桂 充弘
仲裁人 宮島 繁成
仲裁人 下村 眞美
仲裁地:東京
(別紙)
仲裁手続の経過
1. 2015年4月3日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、「仲裁申立書」「証拠説明書」及び書証(甲第1~19号証)を提出し、本件仲裁を申し立てた。
2. 同月7日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。
3. 同月22日、申立人が仲裁人を選定しなかったため、機構は規則第22条第2項に基づき、宮島繁成を仲裁人に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。
4. 同月23日、宮島繁成は仲裁人就任を承諾した。
同日、被申立人が仲裁人を選定しなかったため、機構は規則第22条第2項に基づき、下村眞美を仲裁人に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。
5. 同月24日、下村眞美は、仲裁人就任を承諾した。
同日、機構は、宮島仲裁人及び下村仲裁人に対し、「第三仲裁人選定のお願い」を送付した。
6. 同月28日、被申立人2は、機構に対し、「上申書」及び「委任状」を提出した。
7. 同年5月1日、申立人は、機構に対し、「主張書面1」及び「証拠説明書2」及び書証(甲第20~23号証)を提出した。
8. 同月7日、宮島仲裁人及び下村仲裁人から、第三仲裁人選定を機構に委託する旨の連絡を受け取ったため、機構は規則第22条第2項に基づき、桂充弘を第三仲裁人に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。
9. 同月8日、桂充弘は第三仲裁人就任を承諾し、桂仲裁人を仲裁人長とする、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。
10. 同月27日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対する主張及び立証の補充に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。
11. 同年6月8日、被申立人2は、機構に対し、仲裁合意について先に判断を求める「上申書」を提出した。
12. 同月11日、申立人は、機構に対し、「主張書面2」「証拠説明書3」及び書証(甲第24~29号証)を提出した。
同日、被申立人2は、機構に対し、「答弁書」「証拠説明書」及び書証(丙第1~3号証)を提出した。
13. 同月18日、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人と被申立人2の間の仲裁合意に関して、仲裁合意がある旨の中間判断を行った。
14. 同月19日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に主張立証、反証反論及び審問開催日に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。
15. 同月30日、被申立人2は、機構に対し、「主張書面」「証拠説明書(2)」及び書証(丙第4~8号証)を提出した。
16. 同年7月1日、被申立人2は、機構に対し、「証拠説明書(3)」及び書証(丙第9号証)を提出した。
17. 同月9日、申立人は、機構に対し、「主張書面3」「証拠説明書4」及び書証(甲第30~32号証)を提出した。
18. 同月16日、被申立人2は、機構に対し、同年7月15日付で大阪地方裁判所に対し、仲裁廷が仲裁権限を有するかどうかについての判断を求める申立(仲裁法第23条第5項)をしたので、その判断が出るまでの間、仲裁手続きを延期されたい旨の「上申書(3)」を提出した。
19. 同月17日、本件スポーツ仲裁パネルは、前項の被申立人2からの裁判所への申立は仲裁手続きを停止する効力がないものと判断し、審問の日程調整及び両当事者の追加の主張・反論、今後の立証計画に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(3)」を行った。
20. 同月18日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問の詳細、その出席者及び証人尋問申請に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(4)」を行った。
21. 同月20日、被申立人1は、機構に対し、提出期限から大幅に遅れて「答弁書」「証拠説明書」「委任状」及び書証(乙第1~3号証)を提出した。
同日、被申立人2は、機構に対し、「主張書面2」及び「証人尋問申請書」を提出した。
22. 同月21日、本件スポーツ仲裁パネルは、被申立人1の期限に遅れて提出された主張書面及び書証の扱い、審問当日の出席者及び証人尋問申請に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(5)」を行った。
23. 同月25日、大阪において審問が開催された。
まず、本件スポーツ仲裁パネルから両当事者に主張内容の確認がなされ、その後、当事者尋問、証人尋問が実施された。
その後、両当事者から最終弁論がなされ、審問は終了し、本件スポーツ仲裁パネルは、審理を終結し、仲裁判断言渡し期限を同年9月14日と指定した。
24. 同年9月9日、被申立人2より、仲裁合意に関し、大阪地方裁判所へ申し立てた件について同月7日に「仲裁を行う権限がない」との決定がなされた旨の報告と、同決定がなされた以上、仲裁合意なしとして仲裁を終了されたい旨の「上申書」が提出された。
25. 同年9月15日、本件スポーツ仲裁パネルは、仲裁判断言渡し期限について、同年9月24日に延長する旨の「スポーツ仲裁パネル決定(6)」を行った。
以上
以上は,仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 山本 和彦
申立人 X
被申立人:公益財団法人全日本空手道連盟
被申立人:岸和田市空手道連盟
被申立人岸和田市空手道連盟代理人: 弁護士 松本 藤一
同 堀 貴晴
同 梅田 綾子
本件スポーツ仲裁パネルは,次のとおり中間判断する。
主 文
申立人と被申立人岸和田市空手道連盟との間には,スポーツ仲裁規則第2条2項に定める仲裁合意がある。
理 由
第1 手続の経過
1 申立人は,公益財団法人スポーツ仲裁機構(以下,「機構」という。)に対し,2015年4月3日,同日付け「仲裁申立書」,「証拠説明書」及び「甲第1号証」から「甲第19号証」までを提出し,本件仲裁を申し立てた。
2 機構は,同月7日,本件申立てに関し,公益財団法人全日本空手道連盟倫理規程第10条により仲裁合意があるものと判断し,スポーツ仲裁規則(以下,「規則」という。)第15条1項に定める確認をしたうえで,同項に基づき,申立人の本件仲裁申立てを受理した。
また,機構は,規則21条1項に基づき,本件を通常の仲裁事案として3名の仲裁人によりスポーツ仲裁パネルを構成することを決定した。
3 2015年5月8日,規則第22条2項に基づき,桂充弘を仲裁人長とし,宮島繁成及び下村眞美を仲裁人とする本件スポーツ仲裁パネルが構成された。
4 申立人は,機構に対し,同年5月1日,同日付け「主張書面(1)」,「証拠説明書2」及び「甲第20号証」から「甲第23号証」までを,同年6月11日,同日付け「主張書面(2)」,「証拠説明書3」及び「甲24号証」から「甲29号証」まで(枝番を含む)を提出した。
5 被申立人岸和田市空手道連盟(以下,「被申立人岸空連」という。)は,機構に対し,同年4月28日,同日付け「上申書」を,同年6月8日,同日付け「上申書」を,同月11日,同日付け「答弁書」,「証拠説明書」及び「丙第1号証」から「丙第3号証」まで(枝番を含む)を提出した。
第2 判断の理由
1 被申立人岸空連は,本件仲裁申立てに関し,申立人と被申立人岸空連との間には,申立てにかかる紛争をスポーツ仲裁パネルに付託する旨の合意がないこと,また,被申立人岸空連の規約中にも被申立人岸空連又はその機関が競技者等に対して行った決定に対する不服について,スポーツ仲裁パネルによる仲裁にその解決を委ねる旨の規定がないことを理由として,本件仲裁手続は打ち切られるべきである,と主張する。
2 本件スポーツ仲裁パネルは,被申立人岸空連の主張には理由がなく,申立人と被申立人岸空連との間には,規則第2条2項に定める仲裁合意があるものと認め,主文のとおり判断する。
その理由は,以下のとおりである。
(1)規則第26条によれば,スポーツ仲裁パネルは,付託された事案について仲裁判断をする権限を有するか否かを決定することができる。
(2)本件スポーツ仲裁パネルが仲裁をするには,申立人と被申立人との間に,申立てに係る紛争をスポーツ仲裁パネルに付託する旨の合意がなければならない(規則第2条2項)。
また,競技団体の規則中に競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定に対する不服についてはスポーツ仲裁パネルによる仲裁にその解決を委ねる旨を定めている場合において,その定めるところに従って申立てがされたときは,仲裁申立ての日に同項の合意がされたものとみなされる(規則第2条3項)。
さらに,規則にいう「競技団体」とは,公益財団法人日本オリンピック委員会,同日本体育協会,同日本障害者スポーツ協会,各都道府県体育協会及びこれら団体の加盟若しくは準加盟又は傘下の団体を指す(規則第3条1項)。
(3)被申立人公益財団法人全日本空手道連盟(以下,「被申立人全空連」という。)は,公益財団法人日本オリンピック委員会及び同日本体育協会の加盟団体である(甲第20号証の1)。申立外大阪府空手道連盟(以下,「大空連」という。)は,全空連の加盟団体であり(丙第1号証「被申立人全空連規約」第4条1項,第16条1項,甲第20号証の2),被申立人岸空連は,大空連の加盟団体である(甲第2号証「大空連規約」第3条1項,別表2)。申立人が代表を務めていた「直心会武勝館」は,被申立人岸空連の加盟団体である(甲第1号証「被申立人岸空連規約」第5条,甲第23号証の1,2)。
(4)ところで,被申立人全空連倫理規程第10条は,「本連盟の決定した処分内容に対し,公益財団日本スポーツ機構に上訴を申し立てることができる。」と規定している(甲第3号証)。また,同規程第2条は,同規程の適用範囲を被申立人全空連関係者と定めており,これによれば,被申立人全空連規約(丙第1号証)第4条及び第16条に基づく加盟団体及びその所属会員又は全空連会員規程第2条に基づく会員が被申立人全空連関係者に含まれることになる。さらに,被申立人全空連倫理規程第3条は,被申立人全空連関係者の基本的責務として,関係法令,被申立人全空連定款,規約,関係規程を遵守することを規定している。他方で,被申立人岸空連規約には,被申立人全空連倫理規程の適用を排除するような規定はない。
(5)そうすると,被申立人岸空連は,大空連の加盟団体であることにより,被申立人全空連の加盟団体であるといえ,規則第3条1項5号の「前4号に定める団体の加盟団体若しくは準加盟団体又は傘下の団体」に該当し,被申立人全空連倫理規程第10条は,被申立人岸空連についても適用されるべきものである。
(6)したがって,被申立人岸空連については,規則第3条3項により,申立人が本件仲裁申立てをした2015年4月3日に,同条2項の仲裁合意がされたものとみなされることになるから,本件スポーツ仲裁パネルは,本件申立てについて仲裁判断をする権限を有する。
以上
2015年6月24日
スポーツ仲裁パネル
仲裁人 桂 充弘
仲裁人 宮島 繁成
仲裁人 下村 眞美
仲裁地:東京
以上は,仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内 正人