仲裁判断(2013年10月22日公開)
AP-2012-004号仲裁事案申立人 :X1
AP-2013-001号仲裁事案申立人 :X2
AP-2013-002号仲裁事案申立人 :X3
AP-2013-001号仲裁事案申立人及びAP-2013-002号事案代理人 :
弁護士 平出晋一
弁護士 三輪咲絵
弁護士 太田絢子
AP-2012-004号仲裁事案、AP-2013-001号仲裁事案、及びAP-2013-002号仲裁事案被申立人:
公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟
被申立人代理人:弁護士 藤岡秀樹
主 文
本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。
(1)申立人X1、申立人X2及び申立人X3の請求(1)を却下する。
(2)被申立人が2012年10月6日の理事会において行った申立人X1、申立人X2及び申立人X3に対する公認審査員の無期限の資格停止の決定を取り消す。
(3)申立人X1、申立人X2及び申立人X3が支払った申立料金各5万円、合計15万円は、被申立人の負担とする。
理 由
第1 当事者の求めた仲裁判断
1 申立人X1、申立人X2及び申立人X3(以下「申立人等」という。)は、以下のとおり仲裁判断を求めた。
(1) 被申立人が2012年10月6日の理事会及び臨時総会において行った申立人等に対する理事解任の決定を取り消す。
(2) 被申立人が2012年10月6日の理事会において行った申立人等に対する公認審査員の無期限の資格停止の決定を取り消す。
第2 仲裁手続の経過
別紙記載のとおり
第3 事案の概要
1 申立人等
申立人等は、いずれも、2012年10月6日、被申立人の理事であった。
また、申立人等は、いずれも、2012年10月6日、被申立人の公認審査員の資格を有していた。
2 被申立人
被申立人は、現在はボディビル・フィットネスの普及及び振興等を目的とし、ボディビル・フィットネス競技を統括する公益社団法人であるが、本件紛争当時は、特例社団法人であり、公益財団法人日本オリンピック委員会の加盟団体であるから、スポーツ仲裁規則(以下「仲裁規則」という。)3条1項5号の「競技団体」に該当する。
3 仲裁に関する規定
被申立人細則(以下「細則」という。)19条には「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定に対する不服申立ては、日本スポーツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従って行う仲裁により解決されるものとする」と規定されている。
4 本件紛争の概要
(1) 本件は、被申立人が、2012年10月6日に、申立人等に対し、理事解任の決定、公認審査員の無期限の資格停止の決定を行ったことから、申立人等がこれらの決定の取り消しを求めた事案である。
(2) その前提として、理事及び公認審査員が仲裁規則2条1項の「競技者等」に含まれ、仲裁の申立権限があるかという点、理事の解任及び公認審査員の資格停止の決定が仲裁合意を定める細則19条の「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定」に含まれるかが争われている。
第4 当事者の主張
1 申立権限について
(1) 理事について
① 申立人等の主張
仲裁判断の先例事案(JSAA-AP-2012-003号仲裁事案)からすれば「競技者等」の要件を必ずしも厳格に解する必要はない、また理事が総務委員、選手受付、及び場内整理等をすることから、スポーツ競技に関与しており、競技支援要員として、「競技者等」に該当する。
② 被申立人の主張
仲裁規則2条1項は、スポーツ仲裁の対象を「スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が行った決定」であることをあげている。前記「その」運営とは「スポーツ競技」の運営を指すものであってスポーツ団体自体の運営をさすものではない。理事の解任は法人組織自体に関する決定であって、スポーツ競技の運営に関する決定とは言えないから、スポーツ仲裁の対象とはならない。
また、仲裁規則2条1項は、「競技者等」が申し立てることを要件としている。団体の理事も競技支援要員として「競技者等」に含まれるとすればスポーツ団体全ての構成員が競技支援要員となってしまい、申立人を「競技者等」に限定した意味が無くなってしまう。
(2) 公認審査員について
① 申立人等の主張
審査員も、ドクターやトレーナー等と同様に、競技者のためにスポーツ競技に関与する者ということができ、「競技支援要員」に含まれることから、「競技者等」に該当し(仲裁規則3条5項)、申立権限がある。
② 被申立人の主張
公認審査員は、「競技支援要員」と考えられなくもないが、それは公認審査員がボディビル競技の審査に関与した場合であり、本件のように競技から離れた場面では「競技支援要員」とは言えず、申立権限はない。
2 仲裁合意について
(1) 理事について
① 申立人等の主張
細則19条は、仲裁規則2条3項に定める自動受諾条項に該当し、理事解任の決定は「ボディビルの運営」に関する決定であり、仲裁合意が認められる。
② 被申立人の主張
細則19条は、仲裁に付託することのできる事項を「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定に対する不服申立て」に限定しており、ボディビル競技又は「その」運営とは「ボディビル競技の」運営であって、法人自体の運営等に関する事項は含まれない。理事解任の決議は被申立人の組織の根幹に関する事項であり、法人組織自体の問題であり、細則19条の対象外である。
(2) 公認審査員について
① 申立人等の主張
細則19条は、仲裁規則2条3項に定める自動受諾条項に該当し、公認審査員の資格停止の決定は「ボディビルの運営」に関する決定であり、仲裁合意が認められる。
② 被申立人の主張
細則19条は、仲裁に付託する事項を「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定に対する不服申立て」に限定しており、ボディビル競技又は「その」運営とは「ボディビル競技の」運営であって、法人自体の運営等に関する事項は含まれない。公認審査員の資格停止は被申立人の組織の根幹に関する事項であり、法人組織自体の問題であり、細則19条の対象外である。
3 理事解任及び公認審査員の無期限の資格停止の決定について
(1) 理事解任の決定について
① 被申立人の主張
ア 被申立人は、申立人等に対し、2012年10月6日、理事会及び臨時総会において、定款16条に基づき、理事を解任した。理由は下記ⅰ)ⅱ)ⅲ)ⅳ)である。
ⅰ) 申立人等は、連盟に不正があるという根拠のない文書を公認クラブや関連団体に送付した。
ⅱ) 申立人等は、理事会・総会において、議長の制止を無視し発言を繰り返し会議の進行を妨害した。
ⅲ) 申立人等は、「特例社団法人である連盟の会長は代表理事ではない。自分たちは代表理事である。」等、根拠のない主張を繰り返し連盟を混乱させた。
ⅳ) 申立人等は、突然事務局に押しかけ、一方的に帳簿、領収書の開示を求め、Aとの会議など事務局の運営を妨害した。
イ 被申立人による上記理事解任の理由ⅰ)からⅳ)の具体的内容は、大要、次のとおりである。
ⅰ)について(中傷文書の送付)
下記a)からc)の内容を含む文書を公認クラブや関連団体に送付した。
a) 被申立人において、理事会が設置されていない状態にあり、これまで開催されてきた「理事会」と称されていた会合は、法律上の「理事会」ということはできず、理事会で決定された事項は法律上有効とは言えない可能性がある。
b) 被申立人において、代表理事は選任されておらず、存在しないので、B会長は、会長を名乗っているけれども、被申立人を代表する代表理事であるということはできない。
c) B会長に対する役員報酬の支払いには問題がある。
また、被申立人に対し協賛金を支出しているC株式会社監査役会にあたかも同社と被申立人との間に不正な裏取引があるとする内容の文書を送付した。
上記a)b)については、理事会及び代表理事については、民法上の法人について、①一般社団法人及び一般財団法人に関する法律、②公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律、並びに③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下これらを総称して「新法」といい、そのうち③の法律を「整備法」という。)が施行されても、整備法40条2項により従前の定款は特例社団法人の定款とみなされ、従前の代表理事、理事会の定めは、法人の内部規律的な効力として、旧民法上と同様の効力を有していたのであるから、a)b)については内容が誤っており、上記文書の送付により被申立人及び代表理事であるB会長の信用及び名誉を著しく傷つけた。
c)については、
役員報酬については、B会長は特例民法法人においても定款により会長であり代表権を有している。
役員報酬の額は理事会で決定したものであり、スポンサー紹介料は一つの参考であり、スポンサー紹介料の額と比較をすることは意味がない。
文部科学省から理事に関する報酬及び退職金に関する規則を定めることという指導に基づき2012年3月18日開催の総会において役員報酬規程を制定し文部科学省の指導に対応している。
報酬の支払いについては予算に計上されていることは必ずしも必要ではないし、役員報酬規程を制定すべきという指導は、制度として役員報酬規程を作るべきという趣旨であって、役員報酬規程がない場合に役員報酬規程によらずに理事会の決議にしたがって報酬の支払いをなすことが違法であるという趣旨ではない。
スポンサー紹介料の支払いは、選手権大会実施規程33条に基づき20%を支払う旨の慣行が行われており、同規程に基づき形式的に20%が支払われていたのであるから、B会長に対するスポンサー紹介料の支払いは自己取引に該当するとは認識していない。
以上のことから、c)については誤りであり、上記文書の送付により被申立人及び代表理事であるB会長の信用及び名誉を著しく傷つけた。
ⅱ)について(理事会、総会での議事妨害)
a) 2012年3月18日開催の理事会において、申立人X1は議事の冒頭で、2011年10月1日開催の理事会において自らの発言が認められなかったことへの謝罪を要求し、また文部科学省へなぜ一緒に行かなかったのか、などと予定された議題とは全く関係のない自己主張を繰り返した。申立人X2及び申立人X3も、申立人X1と相呼応して、不規則な発言を繰り返したため、予定された理事会の議事に入ることができず、1時間45分の間理事会の議事が妨害された。
b) 2012年6月17日に理事会を開催しようとしたところ、申立人等がこもごも「新法施行後、定款変更手続き登記が行われていないので、この理事会は正式に認められておらず、またB会長も代表理事(会長)としては認められない」と主張して理事会の開催を止めようとした。
これに対し、コンプライアンス委員長(弁護士)である理事Dが理事会、代表理事に関する定款の効力は旧民法時と同様に内部的制度としての効力が認められることから、新法施行後も理事会及びB会長の存在も問題なく認められると説明した。
しかし、申立人等はこれを理解しようとせず、上記のごとき発言を繰り返し、その結果、理事会の議事に入ることができず、理事会の開催は2時間10分も遅れた。
ⅲ)について(理事会及び代表理事に関する誤った主張)
新法施行後も理事会と代表理事については有効であるにもかかわらず、上記ⅱ)のb)のように、申立人等は理事会の開催及び進行を妨害した。
また、申立人等は、自分たちは代表理事であると主張し、自らを代表理事であると表示する文書を各所に送付した。
ⅳ)について(Aとの会議の妨害)
被申立人としては、申立人等の会計書類の閲覧の請求には応ずるべきであると判断し、申立人等には開示する旨を回答し、双方で開示の日程を調整していた。
それにもかかわらず、2012年6月8日午後2時から被申立人事務局の会議室において、E常務理事とF事務局長がA担当者との会議を行う予定であったところ、申立人等が同日午後2時直前に連盟事務局を訪れ、上記会議室に入り込んで帳簿の開示を求めて会議室を占拠してしまったこと、および事務局員では申立人等に対応できなかったため、E常務理事及びF事務局長が対応せざるを得ず、その結果、A担当者との会議を1時間以上行うことができなかった。
ウ 申立人等のⅰ)からⅳ)の行為の不当性
申立人等は、スポンサー紹介料等について違法行為がありこれらを是正するためにⅰ)からⅳ)の行為を行ったとするが、下記のとおり、スポンサー紹介料の支払いに問題はない。
a) 事前に理事会の決議を取ってはいないが理事会としては決算報告書を承認することによりスポンサー紹介料の支払いを承認している。
b) 未払金を計上せずに後の年度で収受できる規定上の根拠はないが、事実上の繰越金額の範囲内での収受であるし、過年度分の支払いであることが平成19年度の決算報告書に記載されて、理事会において説明し承認されていることから不当性はそれほど大きいものではない。
② 申立人等の主張
ア 前記被申立人の主張ア、イに対して
ⅰ)について(中傷文書の送付)
a) 民法上の法人について、新法が施行され、新法施行後は、従前の代表理事はその地位を有せず、理事会も効力を有しない。
b) 申立人等は、新法に従って代表理事を選任し、理事会を設置する必要があること、また、新法に基づく被申立人の移行手続の不備を指摘し、移行を迅速に行うよう促したにすぎない。
c) 未払い金を繰り越して後の年度で収受できる理由、規定上の根拠は存在せず、後の年度で収受したことは会計手続上の不備があり、それが不当であることから、役員報酬、スポンサー紹介料等に関する文書は根拠があった。
ⅱ)について(理事会、総会での議事妨害)
代表理事及び理事会については上記ⅰ)のa)b)と同様である。
また、会議の場において理事の職務として質問はできないなどという根拠はなく、むしろ被申立人が申立人等の発言を不当に抑止しようとし、申立人等の質問権が侵害されていたのであって、会議の進行を妨害してはいない。
ⅲ)について(理事会及び代表理事に関する誤った主張)
代表理事及び理事会については、上記ⅰ)のa)b)と同様である。
ⅳ)について(Aとの会議の妨害)
一方的に押しかけたなどという事実はない。
イ 申立人等のⅰ)からⅳ)の行為の正当性
スポンサー紹介料の未払金を繰り越して収受できる理由、規定上の根拠は存在せず、会計手続き上の不備があり、しかも不当であることから、申立人等のⅰ)からⅳ)の行為はこれら不当(違法)行為を明らかにし、是正するために行われたものであり、事務局が真実の発見を妨害し、監事両名が虚偽の事実を回答するような環境下においては、ある程度大声を出し、仮に理事会や総会において執拗に質問を行うなどして時間をかけ、資料の改ざんを防ぐために突然事務局を訪れて資料の請求を行うとしてもやむを得ない。
(2) 公認審査員の無期限の資格停止の決定について
① 被申立人の主張
被申立人は、2012年10月6日、理事会において、賞罰規程5条(2)に基づき、申立人等に対し、公認審査員の無期限の資格停止の決定を行った。
決定の理由及び被申立人の主張は、理事解任の決定における被申立人の主張と同じである。
② 申立人等の主張
申立人等の主張は、理事解任の決定における申立人等の主張と同じである。
第5 本件スポーツ仲裁パネルの判断
1 申立権限
(1) 仲裁規則2条1項は、「スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が行った決定について競技者等が申立人として、競技団体を被申立人とする仲裁申立てに適用される」と定めている。
そこで、理事及び公認審査員が上記「競技者等」に含まれるのかについて判断する。
(2) 理事の申立権限について
① 本件仲裁申立てのあった2013年3月25日、2013年4月3日時点の仲裁規則3条5項において、「競技者等とは、競技者、監督、競技支援要員及びそれらの者の属する団体をいう」と規定され、又、仲裁規則3条4項において、「『競技支援要員』とは、コーチ、ドクター、トレーナー等、競技者のためにスポーツ競技に関与する者をいう」と規定されていることからすれば、「競技者等」とは、あくまでも、競技者を中心として、スポーツ競技に関与する者であることが必要である。
したがって、理事等競技団体を運営する役員は、その性質上、組織運営者であり、個々のスポーツ競技に関与する者でなく、よって競技支援要員には該当せず、「競技者等」には含まれないと解すべきである。
② 仲裁規則は、本件仲裁の申立てがなされた後に、仲裁規則3条2項が改正され、「競技者等」には「競技団体の理事等」は含まれないと明記されたが、それは「競技者等」に関する上記解釈を明確にしたものである。
③ この点、申立人等は、理事も事実上、総務委員や選手受付、場内整理をすることから、スポーツ競技に関与しており、競技支援要員に該当すると主張するが、それは、本来の理事としての職務ではなく、単に、団体の構成員として事実上、大会運営に協力しているに過ぎないことから、理事が総務委員や選手受付、場内整理をしているからといって、「競技支援要員」とは言えない。
したがって、申立人等が行った理事解任の取消しを求める請求(1)について、申立人等はスポーツ仲裁の申立権限はなく、却下は免れない。
(3) 公認審査員について
公認審査員は、仲裁規則3条4項に、「競技支援要員」に列挙されてはいないが、コーチ、ドクター、トレーナー等と並んで、スポーツ競技に関与する者であり、競技支援要員に当たると解される。
したがって、申立人等が行った公認審査員の無期限の資格停止の決定の取り消しを求める請求(2)について、申立人等はスポーツ仲裁の申立権限を有する。このことは、決定を受けた理由が競技あるいは審査に関与するか否かには左右されない。
よって、以下は公認審査員の無期限の資格停止の決定について判断する。
2 仲裁合意について
仲裁規則2条3項は、「競技団体の規則中に競技者等からの不服申立て等についてスポーツ仲裁パネルによる仲裁にその解決を委ねる旨を定めている場合において、その定めるところに従って競技者等が申立人として、競技団体を被申立人とする仲裁申立てをしたときにも適用される」と定めている。
他方、細則19条は、「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定に対する不服申立ては、日本スポーツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従って行う仲裁により解決されるものとする」と定めている。
そこで、公認審査員の資格停止の決定が上記「ボディビル競技またはその運営に関して行った決定」に含まれるのかが問題となる。
仲裁規則2条1項は、スポーツ仲裁の対象をスポーツ競技又はその運営に関して、競技団体又はその機関が行った決定としており、「その」運営とは「スポーツ競技」の運営である。細則19条の「ボディビル競技及びその運営に関し行った決定」とは、上記の仲裁規則2条1項と同様に、ボディビル競技及び「ボディビル競技の」運営に関し行った決定と解すべきである。公認審査員の資格停止の決定については、決定を受けた理由が競技又は審査に関与するか否かにかかわらず、細則19条の「ボディビル競技の」運営に関し行った決定であることから、仲裁規則2条3項により仲裁合意があるものとみなす。
スポーツ仲裁は、法律上の争訟として通常の訴訟手続により解決できないスポーツに関する紛争を解決するという目的もあり、公認審査員の資格停止の問題は、法律上の争訟として通常の訴訟手続により解決できない紛争である可能性が高いことからも上記のように解すべきである。
3 公認審査員の無期限の資格停止の決定について
(1) 本件スポーツ仲裁パネルが採用する判断基準
スポーツ仲裁における仲裁判断基準として、日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断の先例(JSAA-AP-2004-001号仲裁事案)によれば、
「日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟(被申立人もその一つである)については、その運営に一定の自立性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならない。仲裁機関としては、1)国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、2)規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、3)決定に至る手続きに瑕疵がある場合、又は4)国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反し若しくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができると解すべきである。」
と判断されており、本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。
よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。
(2) 本件についての判断
申立人等が新法下における理事及び理事会に問題がある旨及び役員報酬の支払い問題がある旨を指摘した文書を送付したこと、申立人等の言動により理事会において議事に通常以上の時間を要したこと、申立人等が新法下においてはB会長は代表理事ではない旨及び申立人等も代表理事である旨の主張を繰り返したこと、並びにAとの会議が開催された日に被申立人の事務局において帳簿・領収書の開示を求めたことが認められる。
しかしながら、申立人等によるこれら一連の行動、言動は、役員報酬及びスポンサー紹介料の支払いについて適正な処理がなされているかについて疑義を有し、これらについて明らかにし、不正があれば是正するために行ったものであると認められる。
また、過去のスポンサー紹介料については、選手権大会実施規程に規定があるものの、「20%を限度として紹介料を支払うことができる」と規定されているのであって、必ず20%を支払うという規定ではないこと(契約獲得の経緯によってはスポンサー紹介料の発生の有無、額は異なると解する余地もある)、過去のスポンサー紹介料の支払いについては、未払金としてその都度計上されていなかったにもかかわらず、明確な規定・根拠なく、一律20%として計算され過去8年分が後からまとめて支払われたことが認められる。
被申立人は、申立人等の理事会や代表理事に関する新法(特に整備法)の条文解釈が誤っており、そのような誤った解釈に基づく言動を問題にするが、申立人等としては自己の解釈についてあらかじめ弁護士の見解を踏まえての言動であったことが認められる。また、その申立人等の通知や発言の趣旨は、役員報酬等の不透明さを明らかにし是正することを目的とし、新法に基づきコンプライアンスに則った代表理事を選任すべきということに主眼があったと解することができる。
したがって、申立人等の行動は、その動機、目的において理解できないわけではなく、公認審査員としての資質、適格という観点から考えると公認審査員の無期限の資格停止とする程の行為とは言えず、公認審査員の無期限の資格停止の決定は、著しく合理性を欠き、被申立人が2012年10月6日の理事会において行った申立人等に対する公認審査員の無期限の資格停止の決定は取り消しを免れないものと言うべきである。
以上の理は、仮に被申立人が公認審査員の無期限の資格停止の理由として主張したⅰ)からⅳ)が全て事実として認められ、かつ、被申立人の主張する法的見解を前提とするとしても、異なるところはない。
4 費用負担
被申立人による申立人等に対する公認審査員の無期限の資格停止の決定がなければ、申立人等が本仲裁を申し立てる必要はなかった。そして、被申立人による申立人等に対する公認審査員の無期限の資格停止の決定は取り消されるべきであることに鑑みれば、仲裁規則44条3項に基づき、申立人等が支払った申立料金5万円、合計15万円は、被申立人の負担とするのが相当である。
第6 結論
よって、本件スポーツ仲裁パネルは主文のとおり判断する。
2013年10月22日
仲裁人 大作 晃弘
仲裁人 水戸 重之
仲裁人 高島 秀行
仲裁地 東京都
(別紙)
仲裁手続の経過
1. 2013年3月25日、JSAA-AP-2012-004号仲裁事案申立人(以下「X1」という。)は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、同月22日付「申立書」、「書証(資料No.1~No.34)」及び「社団法人日本ボディビル連盟細則」を提出し、仲裁を申し立てた。
2. 同月27日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下「仲裁規則」という。)15条1項に定める確認を行った上、同条項に基づきX1の仲裁申立てを受理した。
3. 同年4月3日、JSAA-AP-2013-001号仲裁事案申立人(以下「X2」という。)、及びJSAA-AP-2013-002号仲裁事案申立人(以下「X3」という。)は、「申立書」、「委任状」、「書証(甲第1号証~第14号証)」及び「社団法人日本ボディビル連盟履歴事項全部証明書」を提出し、仲裁を申し立てた。
4. 翌4日、機構は、仲裁規則15条1項に定める確認を行った上、同条項に基づきX2・X3の仲裁申立てを受理した。
同日、機構は、X1に対するJSAA-AP-2012-004号仲裁事案並びに、X2に対するJSAA-AP-2013-001号仲裁事案及びX3に対するJSAA-AP-2013-002号仲裁事案について、仲裁規則36条に基づき併合することを決定し、両当事者に「併合及び仲裁人選定に関する通知」を送付した。
5. 同月17日、X2・X3は、機構に対し、「仲裁人選定通知書」を提出した。
6. 同月19日、機構はX2・X3提出の「仲裁人選定通知書」に基づき、水戸重之に「仲裁人就任のお願い」を送付した。また、被申立人は、仲裁人選定期限までに仲裁人を選定しなかったため、機構は、仲裁規則22条2項に基づき、高島秀行に「仲裁人就任のお願い」を送付した。
同日、水戸重之、高島秀行は仲裁人就任を承諾した。
同日、被申立人は、機構に対し、「答弁書」、「委任状」、及び「公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟履歴事項全部証明書」を提出した。
7. 同月23日、水戸仲裁人、高島仲裁人が第三仲裁人選定を機構に付託したため、機構は仲裁規則22条2項に基づき、大作晃弘に「仲裁人就任のお願い」を送付した。
8. 翌24日、大作晃弘は、仲裁人長就任を承諾し、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。
9. 同年5月20日、本件スポーツ仲裁パネルは、各当事者に対して質問事項への回答を求める旨、及び証拠説明書の提出を求める旨の「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。
10. 翌21日、被申立人は、機構に対し、「スポーツ仲裁パネル決定(1)」に対する回答期限の延長を求める旨の「上申書」を提出した。
11. 同月27日、X1は、機構に対し、書証を提出した。
12. 同月30日、本件スポーツ仲裁パネルは同月21日付被申立人提出上申書による回答期限延長を認める旨及び同月27日付X1提出書類について証拠採用する旨等の「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。
13. 同年6月7日、機構は、両当事者に対して、「5月21日付改正分新旧対照表」、及び「6月5日付改正分新旧対照表」を送付した。
14. 同月14日、X2・X3は、機構に対し、「準備書面(1)」、「証拠説明書(1)」及び「書証(甲B15号証~甲B16号証)」を提出した。
同日、被申立人は、機構に対し、「準備書面」、「証拠説明書」、及び「書証(乙第1号証~乙第23号証)」を提出した。
15. 翌15日、X1は、機構に対し、「パネル決定(1)に対する回答」、「証拠書類整理一覧表」、「証拠説明書」、及び「書証(甲A34号証~A41号証)」を提出した。
16. 同年7月12日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対して、反論、追加主張があれば提出することを求める旨等の「スポーツ仲裁パネル決定(3)」を行った。
17. 同月19日、被申立人は、機構に対し、「スポーツ仲裁パネル決定(3)」に対する回答期限の延期を求める旨の「上申書」を提出した。
同日、本件スポーツ仲裁パネルは、7月19日付被申立人提出上申書による回答期限の延期を認める旨の「スポーツ仲裁パネル決定(4)」を行った。
18. 同年8月1日、X2・X3は、機構に対し、「準備書面2」を提出した。
19. 同月9日、被申立人は、機構に対し、「準備書面」、「証拠説明書」及び「書証(乙第24号証~第26号証)」を提出した。
同日、X1は、機構に対し、「準備書面」、「証拠整理表」、「証拠説明書」及び「書証(甲A42号証)」を提出した。
20. 同月21日、機構は、当事者に対し、「スポーツに関する仲裁についての新規則制定及び従来の規則の一部改正について」、及び「2013年9月1日改正前規則」を送付した。
21. 同月27日、X2・X3は、機構に対し、「準備書面3」を提出した。
22. 同月28日、本件スポーツ仲裁パネルは、当事者双方に質問事項への回答を求める旨等の「スポーツ仲裁パネル決定(5)」を行った。
同日、機構は、両当事者に対し、スポーツ仲裁パネルの指示により「スポーツ仲裁パネル決定(5)」について一部撤回する旨の通知を行った。
23. 同年9月2日、被申立人は、機構に対し、「期日に関する回答書」を提出した。
24. 同月3日、X1は、機構に対し、「審問期日に関する回答書」及び「証人尋問申請書」を提出した。
25. 同月4日、X2・X3は、機構に対し「期日に関する回答書」を提出した。
26. 同月10日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問開催について、「スポーツ仲裁パネル決定(6)」を行った。
27. 同月11日、X1は、機構に対し、「スポーツ仲裁パネル決定(5)」に記載した質問事項の回答期限の延長についての「上申書」を提出した。
28. 同月13日、本件スポーツ仲裁パネルは、「スポーツ仲裁パネル決定(5)」に記載した質問事項の回答期限の延長についての「スポーツ仲裁パネル決定(7)」を行った。
29. 同月17日、被申立人は、機構に対し、「準備書面」を提出した。
30. 同月20日、本件スポーツ仲裁パネルは、X1が2013年9月3日付で提出した「証人尋問申請書」について、意見を求める「スポーツ仲裁パネル決定(8)」を行った。
31. 同月24日、X1は、機構に対し、「準備書面2」を提出した。
同日、X2・X3は、機構に対し、「準備書面4」、「検証申出書」、「文書(証拠)提出命令申立書」、「証人尋問申請書」、「証拠説明書」、及び「書証(甲B17号証、甲B18号証)」を提出した。
同日、被申立人は、機構に対し「準備書面」を提出した。
32. 同月26日、本件スポーツ仲裁パネルは、X2・X3が2013年9月24日付で提出した「検証申出書」、「文書(証拠)提出命令申立書」及び「証人尋問申請書」について、意見を求める「スポーツ仲裁パネル決定(9)」を行った。
33. 同月30日、X1は、機構に対し「証拠説明書(3)」、「証拠書類整理一覧表」及び「書証(甲A43号証)」を提出した。
同日、X2・X3は、機構に対し「準備書面5」を提出した。
同日、被申立人は、機構に対し「準備書面」を提出した。
34. 同年10月1日、本件スポーツ仲裁パネルは、2013年9月3日付X1提出「証人尋問申請書」を却下、2013年9月24日付X2・X3提出「検証申出書」及び「文書(証拠)提出命令申立書」を却下、同日付X2・X3提出「証人尋問申請書」についてはX1・X2・X3に対する尋問についてだけ採用する旨の「スポーツ仲裁パネル決定(10)」を行った。
同日、X2・X3は、機構に対し「上申書」を提出した。
同日、池田記子は、機構に対し本件において、スポーツ仲裁パネルからの依頼により速記者を務めることにつき承諾する旨の「回答書」及び「誓約書」を提出した。併せて、本件スポーツ仲裁パネルは、本件審問において、池田記子を速記者として採用する旨等の「スポーツ仲裁パネル決定(11)」を行った。
35. 同月2日、東京において、審問が開催され、当事者に対する証人尋問が行われた。本件スポーツ仲裁パネルは、審理の終結を決定した。
以上は,仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内 正人