仲 裁 判 断
一般財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2010-002
仲裁判断
申立人:X
被申立人:財団法人全日本ボウリング協会
主 文
申立て(4)は却下し、その他の申立てはすべて棄却する。
理 由
第1. 当事者の求めた仲裁判断
1. 申立人は次のとおりの仲裁判断を求めた。
- (1)被申立人は社団法人兵庫県ボウリング連盟(以下、「兵庫県ボウリング連盟」という)に対して、兵庫県ボウリング連盟が2010年7月27日付で申立人に通知した第65回国民体育大会の兵庫県代表ボウリング選手の決定を取り消し、申立人を同代表に決定すべく指導する。
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(2)被申立人は兵庫県ボウリング連盟に対して、第65回国民体育大会のボウリング競技の兵庫県代表成年男子監督を解任するよう指導する。
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(3)被申立人は兵庫県ボウリング連盟に対して兵庫県代表選手選考に関する外部役員を起用しもしくは外部有識者による専門委員会を設置するよう、又は、兵庫県ボウリング連盟の役員を退任させるよう指導する。
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(4)被申立人はコンプライアンスに関する第三者委員会を設ける。
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(5)仲裁にかかる費用は被申立人の負担とする。
2. 被申立人は次のとおりの仲裁判断を求めた。
- (1)申立人の申立てを却下する。
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(2)仲裁にかかる費用は申立人の負担とする。
第2. 仲裁手続きの経緯
- 1. 2010年7月25日付にて、申立人は、一般財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下、「機構」という)に対し、「仲裁申立書」を提出し、あわせて、証拠書類を提出した。
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2. 同年8月2日、申立人は機構に対して仲裁申立書を補足する書面(メール)を提出した。
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3. 同年8月4日、機構は、スポーツ仲裁規則第15条第1項に定める確認を行った上で、申立人の仲裁申立てを受理した。
また、本件事案においては、「第65回千葉国民体育大会開催要項」によれば国民体育大会の参加申込期日(8月18日)以降の選手の変更は特別の事情がない限り認められないとされているので、事態の緊急性に鑑み極めて迅速に紛争を解決する必要があるとの判断により、同規則第50条に定める緊急仲裁手続によることを決定し、同日、仲裁申立受理及び緊急仲裁手続き開始に関し当事者双方への通知がなされた。
次に、同規則第50条3項の規定に基づき仲裁人として下條正浩を選任し(これにより、本事案のスポーツ仲裁パネルが構成された)、同年8月5日、仲裁人就任及び仲裁パネル構成に関し、当事者双方への通知がなされた。 -
4. 同年8月6日付にて、被申立人より、申立人と被申立人との間で申立にかかる紛争をスポーツ仲裁パネルに付託する旨の合意をしたことがないこと、及び都道府県予選は所属する連盟が競技方法、選考基準等を決定するものであり、被申立人が都道府県の予選会に関与することはないことを主張する文書が提出された。
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5. 同日、スポーツ仲裁パネルは、申立人に対して、7月25日付の「仲裁申立書」に関して説明を求めるとともに、訂正仲裁申立書の提出を求める旨の決定を下した(「スポーツ仲裁パネル決定(1)」)。
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6. 同日、スポーツ仲裁パネルは、「スポーツ仲裁パネル決定(2)」において、8月13日の午前11時に審問の日時を設定することを決定した。
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7. 同年8月7日、申立人より、上記「スポーツ仲裁パネル決定(1)」に対する説明・確認を行う書面(メール)が提出され、同年8月8日、訂正仲裁申立書が提出された。
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8. 同年8月9日、スポーツ仲裁パネルは、被申立人に対して、釈明を求める旨の決定をした(「スポーツ仲裁パネル決定(3)」)。
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9. 同年8月10日、被申立人より、上記スポーツ仲裁パネル決定(3)に対する回答書、都道府県大会並びにブロック大会基準という表題の書面及びボウリング競技規則が提出された。
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10.同年8月10日、スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対して釈明を求める旨の決定をした(「スポーツ仲裁パネル決定(4)」)。
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11.同日、申立人はメールで準備書面(1)を提出した。
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12.同年8月11日、申立人はメールで上記スポーツ仲裁パネル決定(4)に対する回答書を提出した。
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13.同日、スポーツ仲裁パネルは被申立人に対して釈明を求める決定をした(「スポーツ仲裁パネル決定(5)」)。
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14.同年8月12日、被申立人はスポーツ仲裁パネル決定(5)に対する回答書及び競技者規程を提出した。
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15.同日、被申立人は、委任状、被申立人の寄附行為、国民体育大会ボウリング競技についてと題する書面、及びJBC組織改革に伴う事務手続きの手引きを提出した。
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16.8月13日午前11時より東京都内において審問が開始された。
最初に、申立人及び被申立人に対して、それぞれスポーツ仲裁規則第3条に定める競技者及び競技団体に当たることに関する事実の確認がなされた。
次に、申立人及び被申立人に対して、それぞれが求める仲裁判断について確認がなされた。
次に、同日までに、申立人が提出した証拠書類について、整理がなされ、甲(1)-1号証から(8)-1号証までの証拠が提出されたことが確認された。
申立人提出の証拠につき、証拠として採用することに関して被申立人から認めることも認めないこともできない旨の回答がなされているが、スポーツ仲裁パネルは、すべて証拠として採用する旨を決定した。
他方、同日までに、被申立人が提出した証拠については、乙1号証から6号証までの証拠が提出されたことが確認された。スポーツ仲裁パネルは被申立人提出にかかる証拠についても証拠として採用する旨を決定した。
その後、両当事者の主張の整理が行われた。 -
17.以上の手続の後、スポーツ仲裁パネルは、スポーツ仲裁規則第40条1項に従い、審理の終結を決定した。また、同日、同規則第50条5項に基づき仲裁判断を口頭で通知した。
第3 事案の概要
1. 当事者
- (1)申立人
(ⅰ) 申立人は、1974年に兵庫県ボウリング連盟及び被申立人に選手登録し、以降、現在に至るまでボウリングの競技者として活動する者である。
(ⅱ) 申立人は、スポーツ仲裁規則第3条2項に定める「競技者」である。 -
(2)被申立人
(ⅰ) 被申立人は、1964年9月に設立され1973年に財団法人となった団体で、日本におけるボウリング競技界を統轄し代表する団体である。また、財団法人日本オリンピック委員会及び財団法人日本体育協会に加盟する団体である。
(ⅱ) 被申立人は、スポーツ仲裁規則第3条1項に定める「競技団体」である。
2. 本件に至るまでの経緯-申立人の主張
- (1) 申立人は2005年6月15日、兵庫県ボウリング連盟所属の選手である未成年者の飲酒事件等を兵庫県ボウリング連盟の選手強化委員長に対して報告し同人に対する処分を求めた。にもかかわらず、同未成年は2006年に兵庫で開催された国民体育大会に選手として出場した。
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(2) 申立人は2006年8月19日、兵庫県ボウリング連盟理事会において兵庫で開催された国民体育大会における成績不良は合同練習におけるチームワークを乱した選手の放置、その選手を選考した総監督、監督の統率力のなさであるとして強化委員会の改革又は廃止を定期総会ではかるよう動議を提出したが、兵庫県ボウリング連盟理事会の預かりとなり定期総会で審議されなかった。
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(3) 兵庫県ボウリング連盟は申立人に対して2006年12月11日付けで申立人の行為が兵庫県ボウリング連盟の規則「アマチュア競技者規定」3条6号に該当するとして、2008年3月末日までの間一切の競技活動について出場停止とする旨の処分(以下、「本件処分」という)を通知した。
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(4) 申立人は兵庫県ボウリング連盟に対して2006年12月20日付で本件処分に対する異議の申し立てをしたところ、兵庫県ボウリング連盟は本件処分を2007年3月末日をもって一旦停止する旨の決定を通知した。
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(5) 兵庫県ボウリング連盟は申立人に対して2008年3月25日付で同月23日付をもって本件処分を解除する旨決定したと通知した。
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(6) 申立人はボウリングボールの穴開け加工を業としていたので、2008年6月に神戸地方裁判所に、本件処分により売り上げ減少により損害を被ったとして兵庫県ボウリング連盟を被告とする損害賠償請求訴訟を提起した。
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(7) 神戸地方裁判所は2009年8月31日に原告の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
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(8) 申立人は控訴したが、大阪高等裁判所第8民事部は2010年1月29日に控訴棄却の判決を言い渡した。
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(9) 申立人は上告したが、最高裁判所は2010年6月17日に本件を上告審として受理しない旨の決定をした。
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(10)2010年9月25日から29日にかけて千葉で開催される第65回国民体育大会のボウリング部門においては、計4名が、兵庫県ボウリング連盟により兵庫県代表選手として選考されることとなっていた。
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(11)2010年4月25日付兵庫県ボウリング連盟から申立人に対する第65回国民体育大会近畿ブロック大会登録について(通知)により、申立人は兵庫県代表として参加いただく旨の通知がなされた。この通知に基づき、申立人は5月2日から7月4日にわたり随時行われた強化練習に参加した。
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(12)2010年7月16日の監督会議において発表された近畿ブロック大会の兵庫県代表選手に申立人は含まれていなかった。
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(13)2010年7月27日付兵庫県ボウリング連盟から送られた「第65回国民体育大会・ボウリング競技兵庫県代表選手決定のご通知と、強化練習に対するご協力のお願い」において、代表選手4名が決定されたが、申立人は代表選手ではなく予備登録選手として記載された。
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(14)申立人は平成22年度近畿国体代表選手選考会において2位という好成績を出しているにもかかわらず、第65回国民体育大会のボウリング部門の代表選手に選ばれなかった。
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(15)今回の代表選手選考は兵庫県ボウリング連盟のボウリング競技の成年男子監督であるA監督の独自の判断であり申立人の上記(1)及び(2)に記載の行動に対する報復措置である。
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(16)被申立人の競技者規程第4条は「本協会並びに加盟団体の役員は、常に品位と名誉を重んじ、競技者の模範となるよう行動しなければならない」と定め、第16条は「本協会は加盟団体並びに競技者が本規程に違反する事項と認めた時はその加盟団体に注意を与え、本協会主催事業と派遣競技会への所属競技者の参加禁止、あるいは当該団体を寄附行為第41条に基づき除名することができる」と定めている。
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(17)このように被申立人はその加盟団体を監督する権限を持っているのであるから、本件においても兵庫県ボウリング連盟の第65回国民体育大会の代表選手選考や監督の選考についても兵庫県ボウリング連盟を指導すべきである。
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(18)また、今後兵庫県ボウリング連盟による代表選手選考が適正に行われるように外部役員を起用するか、もしくは外部有識者による専門委員会を設置するよう又は兵庫県ボウリング連盟の役員を退任させるよう指導すべきである。
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(19)被申立人にあっては、本件と同様の事例において今後スポーツ仲裁によらなくてもすむようにコンプライアンスに関する第三者委員会を設けるべきである。
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(20)被申立人の規則である「競技者規程」には、第18条において、「本協会のボウリング競技に関して行った決定に対する不服申立ては、日本スポーツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従って行う仲裁により解決されるものとする」との定めがある。
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(21)被申立人は国民体育大会のボウリング競技を主管・運営しているので、各都道府県の選考基準を統括するものである。また、被申立人は加盟団体を統轄するものである。
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(22)国民体育大会におけるボウリング競技は被申立人の競技規則に従って行われるものであり、加盟団体の選手の国民体育大会参加資格を最終的に決定し選手登録を認める最終権限は被申立人にある。
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(23)被申立人は兵庫県ボウリング連盟を指導・監督する立場にある以上、今回の兵庫県ボウリング連盟による国民体育大会兵庫県代表選手の選考、監督の選考、選出方法について兵庫県ボウリング連盟を指導すべきである。
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(24)今後加盟団体の役員によるハラスメントを受けた場合にはスポーツ仲裁によらずに解決されるよう被申立人において客観性のある第三者委員会を設けるべきである。
3. 本件に至るまでの経緯-被申立人の主張
- (1) スポーツ仲裁規則第2条第2項によれば、この規則による仲裁をするには,申立人と被申立人との間に,申し立てにかかる紛争をスポーツ仲裁パネルに付託する旨の合意がなければならないとされている。被申立人は申立人との間でそのような合意をしたことがない。
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(2) 国民体育大会の都道府県予選に伴う選手の選考については、所属する連盟が競技方法、選考基準等を決定するものであり、被申立人が都道府県の予選会に関与することはない。したがって、本件スポーツ仲裁に関しては被申立人は兵庫県ボウリング連盟である。また、国民体育大会に関する申し込みはすべて都道府県体育協会会長が認めた者となっている。
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(3) 国民体育大会近畿予選大会が被申立人のボウリング競技規程によって行われるというのは、被申立人制定のボウリング競技規則(競技規定、競技会規定、リーグ規定及び選手権競技会規定)の意味であり、選手の選考に関する規程は含まれていない。
第4. 判断の理由
- 1. 申立人が求めた仲裁判断(1)と(2)について
(1) スポーツ仲裁の対象性
被申立人は申立人と被申立人との間に仲裁合意が存在しないと主張する。しかし、申立人は競技者規程(乙4号証)第18条が「本協会のボウリング競技に関して行った決定に対する不服申し立ては日本スポーツ仲裁機構のスポーツ仲裁規則に従って行う仲裁によって解決されるものとする」と定めていることを援用している。そこで、問題は「本協会のボウリング競技に関して行った決定」があるかどうかである。
確かに、本件で問題となっている第65回国民体育大会のボウリング競技に関する兵庫県代表選手及び成年男子監督の決定は兵庫県ボウリング連盟が行ったものであり、被申立人による決定はないともいえる。しかし、他方では、被申立人はその加盟団体である兵庫県ボウリング連盟に対して指導・監督する立場にもある。被申立人の寄附行為(乙5号証)によれば、被申立人は日本におけるボウリング競技界を統轄し代表する団体として、また加盟団体を承認し、除名する権限を有することから、一般的に加盟団体を指導・監督する立場にあると認められる。また、被申立人の競技者規程第16条は、「本協会は加盟団体並びに競技者が本規程に違反する事項と認めた時はその加盟団体に注意を与え、本協会主催事業と派遣競技会への所属競技者の参加禁止、あるいは当該団体を寄附行為第41条に基づき除名することができる」として個別的な指導・監督権を定めている。そうであれば、被申立人は兵庫県ボウリング連盟に対して指導をしないという具体的な決定はしていないが、指導しないという不作為を決定に準ずるものととらえることもでき、この不作為は「本協会のボウリング競技に関して行った決定」ととらえることもできる。このように考えるときは、上記競技者規程第18条の要件を満たしスポーツ仲裁の対象となりうると解すべきである。
(2) 被申立人は兵庫県ボウリング連盟を指導すべきか
申立人は競技者規程第4条が「本協会並びに加盟団体の役員は、常に品位と名誉を重んじ、競技者の模範となるよう行動しなければならない」と定めていること及び同第16条が「本協会は加盟団体並びに競技者が本規程に違反する事項と認めた時はその加盟団体に注意を与え、本協会主催事業と派遣競技会への所属競技者の参加禁止、あるいは当該団体を寄附行為第41条に基づき除名することができる」と定めていることを援用し、被申立人は第65回国民体育大会における兵庫県代表選手及び成年男子監督の選考について兵庫県ボウリング連盟に対して指導すべきであると主張する。これに対して、被申立人は国民体育大会の代表選手及び成年男子監督の選考は加盟団体である連盟が決定するものであり、被申立人が関与することはないと主張する。
第65回国民体育大会のボウリング競技開催要項(甲(6)-2号証)によれば、「各都道府県連盟は、種別ごとにブロック大会に出場する代表選手を決定する」と定めており、参加資格については総則5に定めるところによるとされており、第65回国民体育大会の実施要綱の総則5(乙6号証)には「選手及び監督は所属都道府県の当該競技団体会長と体育協会会長が代表として認め、選抜した者であること」とされている。さらに、各競技の参加申し込み方法については「都道府県の体育協会会長及び各競技団体会長は、連署の上、都道府県大会又はブロック大会において選抜された者...を、大会会長あてに申込むものとする」とされている(甲(6)-3号証)。以上から見ると、国民体育大会における各都道府県の代表選手及び監督は各都道府県の体育協会と競技団体である連盟が主体となって決定するものであり、被申立人は関与していないと認められる。確かに、代表選手と監督の国民体育大会への参加資格については被申立人が最終的にチェックするが、参加資格の違反があるときは被申立人は日本体育協会に、日本体育協会は地方体育協会に、地方体育協会は地方のボウリング連盟にその旨を伝えることとなっており、被申立人が直接連盟に対して資格違反を通知する仕組みになっていない。
被申立人はその寄附行為(乙5号証)において、日本におけるボウリング競技界を統轄し代表する団体として、また加盟団体を承認し、除名する権限を有することから、一般的に加盟団体を指導・監督する立場にあると認められる。現に、被申立人は加盟団体の模範定款やその他の書式を定めている(乙7号証)。これに加えて、競技者規程第16条は加盟団体に具体的な規程違反行為があった場合に被申立人が加盟団体に注意を与えるという個別的な指導・監督権を定めている。
思うに被申立人と兵庫県ボウリング連盟はあくまでも別個の法人であり、それぞれ自立性が認められている団体である。なかんずく、第65回国民体育大会における代表選手及び成年男子監督の選考は兵庫県ボウリング連盟と兵庫県体育協会に委ねられている事項である。被申立人が上記競技者規程第16条に定める個別的な指導・監督権から兵庫県ボウリング連盟を指導することが要請されるのは兵庫県ボウリング連盟の決定が上記規程に違反する場合とされている。申立人は関連する規定として、同規程の第4条を挙げている。同条は加盟団体の役員は常に品位と名誉を重んじ、競技者の模範となるよう行動しなければならないと定めている。この第4条のような一般条項を理由として被申立人が加盟団体を指導することが要請されるのは、加盟団体の役員に著しく重大な規則の違反がある場合に限られるというべきである。しかるに、本件の場合には、申立人は第65回国民体育大会近畿ブロック大会における兵庫県代表選手として選任されており、第65回国民体育大会の兵庫県代表選手の予備登録選手として選任されている。このことから見れば、本件における代表選手及び成年男子監督の選考については、そのような著しく重大な規則の違反を構成する事情は認められず、自立性を持つ連盟の裁量の範囲内の決定であると考えられるので、被申立人が兵庫県ボウリング連盟に対して指導すべき理由はないと判断する。
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2. 申立人が求めた仲裁判断(3)について
(1) スポーツ仲裁の対象性
この点については、上記第4.1.(1)を援用する。
(2) 被申立人は兵庫県ボウリング連盟を指導すべきか
上記第4.1.(2)において判断したように、兵庫県代表選手の選考は自立性を有する兵庫県ボウリング連盟の判断に委ねられていると解される。従って、代表選手選考手続きにおいて、外部役員又は外部有識者による専門委員会を設置するかどうかも兵庫県ボウリング連盟が自主的に決定するべき事項である。確かに、被申立人は加盟団体に対する一般的な指導・監督権に基づき加盟団体すべてに対して模範となる代表選手及び監督の選考手続きを定めることは可能である。しかし、それを越えて特定の加盟団体に対して個別・具体的な選考手続きを定めるよう求めることができるかどうかは、競技者規程第16条に定める同規程違反の場合における個別的な指導・監督権の対象となるかどうかの問題である。本件において、兵庫県ボウリング連盟が外部役員又は外部有識者による専門委員会を設置していないことについては、競技者規程違反とは認められず、また、兵庫県ボウリング連盟の役員に上記第4.1.(2)に示したような著しく重大な規則違反も認められないので、個別的な指導・監督権の対象にはならないというべきである。従って、被申立人が兵庫県ボウリング連盟に対してこの点について指導すべき理由はないと判断する。また、兵庫県ボウリング連盟の役員を解任するということについても、連盟の役員の選任、解任は自立性を有する連盟に委ねられている事項であり、上記のように兵庫県ボウリング連盟の役員に著しく重大な規則違反がない限り、上記競技者規程第16条に定める個別的な指導・監督権から連盟を指導することはできず、被申立人はこれに介入すべきではないと考えられる。本件の場合にはそのような著しく重大な規則違反を構成する事情は認められないので、この点において、被申立人が兵庫県ボウリング連盟に対して指導すべき理由はないと判断する。
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3. 申立人が求めた仲裁判断(4)について
(1) スポーツ仲裁の対象性
申立人は被申立人がコンプライアンスに関する第三者委員会を設けるよう求めているが、スポーツ仲裁はあくまでもスポーツ競技又はその運営に関して競技団体が行った決定についてなされるものである。従って、本件のようなコンプライアンスに関する第三者委員会を設けるということは被申立人の内部統制に関する組織上の問題であり、スポーツ仲裁になじまないというべきである。
第5.結論
以上のことから、主文のとおり判断する。
仲裁地 東京都
2010年8月13日
スポーツ仲裁パネル
仲裁人 下條 正浩
以上は、仲裁判断の謄本である。
一般財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内正人
※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。