仲裁判断

仲裁判断(2015年7月2日公開)
仲裁判断の骨子(2015年6月4日公開)


仲裁判断

仲 裁 判 断
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2015-003

申立人         X1

            X2

申立人代理人  弁護士 五十嵐 潤

         同  鳩貝 滋


被申立人    公益社団法人日本ボート協会

被申立人代理人 弁護士 鈴木 仁


主   文


本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

1 A及びB(以下「C大学クルー」という。)の申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年4月6日付け裁定(2015年(裁)第1号裁定)のうち、被申立人の強化委員会が、2015年3月10日(火)になしたU23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出漕する代表選手の選考決定(以下「被申立人強化委員会決定」という。)のうち、申立人ら(X1及びX2。以下「D大学クルー」ということがある。)を代表選手に選考するとの部分を取り消す、との部分を取り消す。

2 C大学クルーの申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年5月12日付け裁定(2015年(裁)第2号裁定)のうち、被申立人は、C大学クルーとD大学クルーを対象とし、2015年5月22日(金)までに同代表選考に関わる選考レースの実施とその要領(競漕距離を1500m以上とし、審判艇を付する等)を告知し、同年6月7日(日)までに同選考レースを実施せよ、との部分、被申立人は、前項のレースが正常に終了したときには、その先着したクルーを同代表に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよ、との部分、及び被申立人が上記選考レースに関する告知をせず、または同レースへのエントリー等の参加の意思表明がC大学クルーだけの時は、C大学クルーを同代表に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよ、との部分を取り消す。

3 申立人らの申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年5月12日付け裁定(2015年(裁)第3号裁定)のうち、被申立人は、被申立人強化委員会決定のとおり、D大学クルーを代表選手に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよとの申立てを棄却する、との部分を取り消す。

4 被申立人強化委員会決定のうち、D大学クルーをU23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出漕する代表選手に選考する部分が有効であることを確認する。

5 申立人らのその余の請求を棄却する。

6 申立料金合計108,000円は、被申立人の負担とする。


理  由

 

第1 当事者の求めた仲裁判断

 

1 申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

(1)主文第1文と同じ。

(2)主文第2文と同じ。

(3)主文第3文と同じ。

(4)被申立人強化委員会決定が、2015年3月10日になしたU23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出漕する代表選手選考決定のとおり、申立人両名を代表選手に選考する。

(5)申立料金は、被申立人の負担とする。

2 被申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

(1) 申立人の請求をいずれも棄却する。

(2) 申立費用は申立人の負担とする。

 

第2 仲裁手続の経過

 

 別紙に記載のとおり。

 

第3 事案の概要

 

1 当事者


 申立人らは、D大学漕艇部に所属するボート競技の選手であり、D大学クルーとしてU23世界選手権軽量級スィープカテゴリー出場を目指す者である。

 被申立人は、ボート競技の国内競技団体である。


2 被申立人が決定、公表していた代表選考方法


 被申立人は、U23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出場する日本代表選手を選考するに当たり、2015年3月9日のタイムトライアルで1位となったクルーと、同月10日の最終選考レース(以下「本レース」という。)で1位及び2位となったクルーの計3クルー(計6名)を代表選手に決定するとの選考基準を告知していた。当該告知の内容に従って行われた本レースで申立人らクルーが2位となり、被申立人強化委員会は、同月10日、申立人らを代表に選考する決定(以下「被申立人強化委員会決定」という。)を行った。


3 C大学クルーによる裁定申立てと被申立人強化委員会決定の取消し


(1)被申立人裁定委員会の第1号裁定

 しかし、2015年3月17日に、本レースで3位となったC大学クルーは、本レースにおいて申立人らクルーとC大学クルーとの間で接触やレーン侵害が発生したと主張し、かつ、本レースは主審不在の中実施されたために、主審の取るべき対応が何ら取られないまま、着順どおりに順位が決定されたものであり、その結果を基に申立人らを代表選手に選考する被申立人強化委員会決定は取り消されるべきであると主張して、被申立人強化委員会決定の全部の取消しを求めて、被申立人が裁定委員会規定に基づき設置している裁定委員会(以下「被申立人裁定委員会」という。)に対して裁定を申し立てた(本裁定手続に申立人らは補助参加した。)。

 被申立人裁定委員会は、2015年4月6日に、資格を有する審判が伴走車に乗っており、同様の形態で行われた他のレースが特段の問題なく終了していること等から、C大学クルーによる主審不在との主張は認めなかったが、本レースの記録映像等を検証の上、本レース中に、申立人らクルーがC大学クルーのレーンを侵害し、申立人らクルーとC大学クルーのオールが極めて接近もしくは交錯したという事実を認定し、それらの事象が原因でC大学クルーの切込みや艇の停止が発生し、正常なローイングが阻害されているため、本レースの結果は、選考資料としての価値を大きく減殺され、本レースのゴール順をそのまま代表選考の資料、それも唯一かつ絶対の資料とすることは極めて不適切・不適当であるとして、被申立人強化委員会決定のうち、申立人らを代表選手にするとの部分を取り消した(以下「第1号裁定」という。)。

(2)業務執行会議の2015年4月17日付選考決定

 この被申立人裁定委員会の裁定を受け、被申立人の業務執行会議は、2015年4月17日に、すでに決定している2クルー(4選手)以外は代表選手として選考しないことを決定した(以下「本件4月17日付選考決定」という。)。

(3)被申立人裁定委員会の第2号裁定および第3号裁定

 これに対してC大学クルーは、2015年4月27日に、本件4月17日付選考決定の取消しと申立人らとC大学クルーの再選考レースの実施等を求めて、一方申立人らは、2015年5月7日に、本件4月17日付選考決定の取消しと被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考すること等を求めて、それぞれ被申立人裁定委員会に裁定の申立てを行った。被申立人裁定委員会は、2015年5月12日に、C大学クルーの申立て内容を全面的に認め、被申立人に対して2015年6月7日までに申立人らとC大学クルーの再選考レースを実施するよう命ずるとともに、再選考レースが正常に終了した時には先着したクルーを3番目の代表クルーとすること、被申立人が再選考レースに関する告知をしないか再選考レースの参加意思表明がC大学クルーだけの時にはC大学クルーを3番目の代表クルーに選考することを命じる裁定を出した(以下「第2号裁定」という。)。一方、申立人らの申立てについて、被申立人裁定委員会は、2015年5月12日に、本件4月17日付選考決定を取り消すものの、申立人らを代表選手に選考するとの申立ては棄却する裁定を出した(以下「第3号裁定」という。)。


4 申立人らの本仲裁申立て


 そこで、申立人らは、第1号裁定のうち、2015年3月10日になされた被申立人強化委員会決定を取り消すとした部分、第2号裁定のうち、申立人らとC大学クルーとの再選考レース等を命じる部分、第3号裁定のうち、被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考せよとの申立てを棄却した部分につき、それらの取消しを求めて、本仲裁を申し立てた。


第4 当事者の主張

 

1 申立人の主張


 第1号、第3号裁定事案での被申立人裁定委員会の裁定判断は、競技中になされた審判の判定に関するものであり、裁定委員会規定には、「競技中になされた審判の判定」について被申立人裁定委員会は判断する権限を有さないとされているにかかわらず、被申立人裁定委員会はその権限を逸脱して「競技中になされた審判の判定」を覆すような判断をしているから、取り消されるべきである。また、第2号裁定事案は、第1号裁定判断を前提としたもので、第1号事案の裁定判断が取り消されるのであるから、第2号事案の判断も維持しえない。

 また、予備的主張として、第1号、第3号裁定事案での被申立人裁定委員会の判断中、接触または妨害があったとの認定は事実に反するから取り消されるべきである。


2 被申立人の主張


(1) 本案前の答弁

 裁定委員会規定には「裁定委員会の裁定判断が、不服申立を認容し、決定等を取り消すもの等である場合、この判断は本会(理事会)を拘束し、本会は、これに従うものとする。」旨の定めがあり、第1号裁定事案、2号裁定事案は、C大学クルーの不服申立てを認容するものであるからすでに確定しており、確定した判断の取消しを求めることは、法的安定性を著しく阻害し不適法である。しかも、申立人は、第2号裁定事案の当事者ではなく、その裁定に対して不服を申し立てうる地位にはない。第3号裁定の申立ても第1号裁定の蒸し返しであり、第1号裁定事案はすでに確定しているから許されない。

(2) 本案についての答弁)

 仮に上記主張が認められないとしても、下記のとおりのC大学クルー作成の意見書の内容を、被申立人の主張として援用する。

 本レースは競漕規則上定められていない「伴走車」に乗った主審による判定が行われており、本レースの運営は、極めて不適切・不公平な方法で行われ、それにより代表選考の資料となる試合の結果が変わる場合には、競技中の審判の事実認識に関する判断も許される場合がある。また、第1号裁定は、資料価値を評価したに過ぎないのであり、レースの着順を変更したり、D大学クルーに対して競漕除外等の措置を採ることを命じたりするものではないから、審判の判定に踏み込むものではない。さらに、本レースが伴走車による審判の方法の事前告知も不十分であったし、仮に、参加者に事前周知されていたとしても、参加者は競技団体が定めた運営方法に一方的に従わざるを得ないのであるから、伴走車による審判方法を正当化できない。また、C大学クルーは上陸前のアピールは行っていないものの、審判は、「伴走車」から、正確に目視できずに判断しているのであって、選手からアピールがあったとしても正確に判断できなかったことには変わりなく、また、そもそも審判はレース中に何も判断をしていないのであるから、C大学クルーはアピールのしようがなかったし、主審は、規則に則ったアピール確認方法を採っていない。

 これらの事情を考慮すれば、第1号乃至3号裁定は維持されるべきである。


第5 本件スポーツ仲裁パネルの判断


1 本案前の答弁について

 被申立人は、申立人らが取消しを求めている第1号裁定及び第2号裁定はすでに確定しており、また、これらの裁定手続の当事者ではなかった申立人らが不服を申し立てうる地位にはそもそもないと主張して、第1号裁定と第2号裁定のそれぞれ上記部分の取消しを求める申立ては却下されるべきと主張した(以下「本案前の答弁」という。)。

 申立人らは、第1号裁定及び第2号裁定により、自らの代表選手としての立場を失うという直接的な影響を受ける者である。よって、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「当機構」という。)のスポーツ仲裁規則第2条第1項にいう「決定に不服がある競技者等(その決定の間接的な影響を受けるだけの者は除く。)」に該当することは、明らかである。  

 なお、確かに、被申立人の裁定委員会規定には、以下の規定が存在する。

「第19条(裁定判断の効力)

1. 裁定委員会の裁定判断が、不服申立を認容し、決定等を取り消すもの等である場合、この判断は本会(理事会)を拘束し、本会は、これに従うものとする。

2. 裁定委員会の裁定判断が、不服申立を棄却した場合、この判断を不服とする申立人は、仲裁機構に仲裁の申立をすることができる。

第20条(裁定前置主義)

 前条第2項のとおり、決定等について仲裁機構に仲裁の申立をするためには、裁定委員会による裁定手続を経なければならない。」

 しかし、被申立人の決定等を取り消す被申立人裁定委員会の裁定判断に関し利害関係を有する者は、その裁定判断の当事者に限られるわけではないところ、そのような利害関係人に不服申立権が認められないのでは、手続保障に欠け、制度設計として妥当ではない。そこで、第19条第1項の規定は、被申立人裁定委員会の不服申立認容裁定に、被申立人は異議を述べずこれに拘束されることを自主的に宣言したものにすぎず、その他の利害関係人も拘束する対世効を裁定に認めたものではないと解する。また、同条第2項は、申立てを棄却する裁定判断に対し申立人がさらに不服を申し立てるという典型的な場面を想定したものにすぎず、決定等を取り消す被申立人裁定委員会の裁定判断に利害関係を有する者がいる場合には、その者もまた、当機構に仲裁の申立てを行うことができるとの趣旨を含むものと解すべきである。なお、第20条についても、申立人らが取消しを求めている被申立人の決定は、いずれも被申立人裁定委員会の裁定であり、「裁定前置」という要件も満たしている。以上のとおり、被申立人の裁定委員会規定は、申立人らが第1号裁定及び第2号裁定について、当機構に不服申立てを行うことの障害にはならない。

 よって、被申立人の本案前の答弁は認められない。


2 本案について

 続いて、本案について判断する。第1号裁定により被申立人強化委員会決定が覆らなければ、第2号裁定及び第3号裁定もあり得なかったのであるから、まず、第1号裁定の当否を判断する。

(1)本件スポーツ仲裁パネルの判断基準

 当機構における過去の仲裁判断では、「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、または④国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができる」との判断基準が示されており、本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。

(2)被申立人が定めている規則・規定の内容

 被申立人の裁定委員会規定には、「競技中になされた審判の判定」は裁定の対象とはならないことが明記されている(裁定委員会規定第2条)。また、被申立人の競漕規則には、「主審は、競漕中、各艇の漕跡の正当性を判断し、接触または妨害の場合、その責任の帰属を即座に決定しなくてはならない。この決定は主審だけが行う。」(被申立人競漕規則第40条)、「競漕に関するものである限り、審判の決定は最終とし提訴は認められない。又、いかなる時点においても、審判の決定に対する批判は許されない。」(同第63条)と明記されている。

(3)第1号裁定の有効性

 ところが、第1号裁定の内容は、本レースの記録映像を検討するなどして申立人らクルーにレーン侵害等があったという事実認定をした上で、主審には事実誤認があり、対応も不十分であったとの認定をしているのであって、結局、第1号裁定は「競技中になされた審判の判定」の領域に踏み込んで判断を行っていることに他ならない。したがって、第1号裁定は、被申立人自身が定めた裁定委員会規定にも、競漕規則にも反したものであり、上記「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合」に該当している。したがって、第1号裁定は取り消されるべきである。

 この点につき、第1号裁定は本レースの資料価値を評価したものであって、同レースの着順を変更するものではないとしており、被申立人もそのように主張する。しかし、被申立人は本レースで上位の2クルーを代表に決定するとの選考基準を、事前に決定し公開しているのであり、この選考基準は、本レースの着順のみに基づいて代表選考をするといういわば一発勝負による選考である。したがって、本レースの着順自体に変更がないとしつつ、2位であった申立人らの代表選考を取り消すとした第1号裁定は、被申立人が事前に決定し公開していた選考基準にも反するものである。そして、被申立人が事前に決定・公表していた本件の選考基準は、国内スポーツ連盟の制定した規則に含まれると解される(参考:JSAA-AP-2004-01)。したがって、この点においても、上記「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合」に該当することとなり、第1号裁定は取り消されるべきである。

(4)審判の判定に対する事後的判断の可否

 被申立人は、代表選考の資料となる試合の運営が(故意もしくは重過失により)極めて不適切・不公平な方法で行われ、その不適切な試合運営により代表選考の資料となる試合の結果が大きく変わることになれば、競技者は救済されないばかりか、代表選考の目的からも大きく逸脱し、不合理極まりないというC大学クルーの主張を援用する。

 確かに、審判が、例えば買収等により悪意をもって不誠実な判定をしたような場合には、例外的に審判の判定の適否に事後的な審査機関が踏み込んで判断する必要があることは否定できないが、そういった特殊な事情がない限り、審査機関が試合中の審判の処分に立ち入った判断をすべきではない(参考:CAS2004/A/704 Yang Tea Yong v/FIG(In short Courts may interfere only if an official’s field of play decision is tainted by fraud or arbitrariness of or corruption; otherwise although a Court may have jurisdiction it will abstain as a matter of policy from exercising it), CAS OG 00/013 Segura v/IAFF (CAS arbitrations do not review the determinations made on the playing field by judges, referees, umpires or other officials who are charged with applying what is sometimes called “rules of the game.” (One exception among others would be if such rules have been applied in bad faith, e.g. as a consequence of corruption.)、CAS OG 02/007 Korean Olympic Committee(KOC) v/ International Skating Union(ISU) (It is clear that CAS Panels do not review ‘’field of play’’ decisions made on the playing field by judges, referees, umpires or other officials, who are responsible for applying the rules or laws of the particular game.) CAS OG 04/007 Comite’ National Olympique et Sportif Francais(CNOF), British Olympic Association (BOA) and United states Olympic Committee (USOC) v Federation Equestre Internationale (FEI) and National Olympic Committee for Germany 等)。被申立人の裁定委員会規定第2条や当機構のスポーツ仲裁規則第2条第1項も同様の趣旨と解することができる。本件においては、審判が悪意をもって不誠実な判定をしたような事情は、当事者から一切主張されておらず、両当事者から提出された証拠からもそのような事情は一切伺われない。

 また、本レースで主審が審判艇ではなく、伴走車に乗って審判をすることで、審判艇から見るよりも見えづらい、あるいは見落としやすい部分があるとしても、そのことによって特定の競技者に有利な(あるいは不利な)状況が作出されたことはない(詳しくは後述する。)。そもそも、原則どおり主審が審判艇に乗って審判をした場合であっても、見落としや判断ミスの可能性が完全になくなるわけではないが、その点も踏まえて、被申立人の裁定委員会規定や当機構のスポーツ仲裁規則は、「審判の判定」には踏み込まないとしているのである。よって、本件においても、審判の判定を審査の対象とすることはできない。

(5)ビデオ判定の可否

 被申立人裁定委員会は、第1号裁定事案の際、侵害・接近・交錯等の有無を判断するための資料として、記録映像を用いて、詳細に本レースの内容を検討していることが伺える。被申立人は、審問において、ビデオ判定を禁じる規定はない旨述べているが、ビデオ判定を禁じる規定がないことをもって、それが無制限に許されると解することはできず、むしろ、ビデオ判定を許容する旨の規定がないことは、ビデオ判定を許容していないと解される。競漕規則第62条において、審判への異議はやむを得ない場合を除き、上陸前にすべきであると定めている趣旨から考えても同様の結論に至る。仮に、画像による事後の検証を無制限に認めると解すれば、まさに被申立人のいう「法的安定性」や「円滑なスポーツの運営」を害することになる。

(6)ローカルルールの適用

 被申立人は、本レースは競漕規則上定められていない「伴走車」に乗った主審による判定が行われており、本レースの運営は、極めて不適切・不公平な方法で行われ、それにより代表選考の資料となる試合の結果が変わる場合には、競技中の審判の事実認識に関する判断も許されるべきであるというC大学クルーの主張を援用する。

 しかし、競技規則の一部を変更して適用するルール(以下「ローカルルール」という。)は、一定の条件のもとでは許されると考えられる。ローカルルールの適用が許容されるためには、少なくとも参加者全員にローカルルールの事前周知がなされていること(参考:JSAA-AP-2004-002)に加え、すべての競技者にとって条件が平等であること、ローカルルールによる変更が競技の本質や規則上の強行規定(選手の安全面)などに変更を加えるものでないことが最低限必要であると解する。

 本レースにおいては、伴走車を用いることや審判へのアピール方法については、C大学の代表者も出席していた2015年3月8日の代表者会議で参加者へ事前の説明があり、同年3月9日、10日にも同様の内容を告知するトラフィックルールの掲示があったことが、申立人が提出したトラフィックルール、他団体監督の陳述書、C大学所属 Eの第1号裁定での証言内容の反訳書、本件スポーツ仲裁パネルの2015年5月28日付照会に対する被申立人の回答書等から認定できる。また、主審が伴走車に乗っていることでC大学クルーのみが不利益を被るわけではなく、また競技の本質や選手の安全面を損なうような変更がなされているわけでもない。しかも、審判艇ではなく、主審が伴走車に乗って伴走するという形態は、2015年3月9日から同月12日までに行われた他のレースでもとられており何ら問題がなくレースが終了している上、被申立人によれば被申立人が主催した最近の競技会においては、審判艇を用いず陸上にいる審判が判定を行う形態の方が多く行われていたことが認められる。

 これらの事情を考慮すると、審判車から審判が判定を行うというローカルルールに問題はなく、本レースの運営が不適切・不公平な方法で行われているとはいえない。

(7)その他のC大学クルー意見書援用部分について

 被申立人が援用するC大学クルーによる意見書には、C大学クルーは上陸前のアピールは行っていないものの、そもそも審判がレース中に何も判断をしていないのであるから、アピールのしようがなかったとの記載がある。しかし、漕艇表の記載から、主審は、侵入や接触・妨害の危険を認識した上で数回警告を発して、レースを続行するとの判断を下していることが認められ、これはレースの中止や一部クルーの除外をせずに最後まで本レースを続行するという主審の決定に他ならないのであって、審判がレース中に何も判断をしていないというC大学クルーの認識は事実に反する。また、同意見書には、異議申立ての有無は審判が各クルーに確認すべきであるが、本レースでは主審が各クルーに対してアピールの確認をしなかった旨の記載があるが、その点は、事前に「アピールがある場合には移動車に向かって挙手してください」との、ローカルルールが事前周知され、適用されていた以上、その特別ルールが優先されるのであり、また、C大学クルーがそのようなアピールを行うことが不可能又は困難であったとの事情も伺われないから、被申立人の主張は採用することができない。


第6 結論


 以上の理由から第1号裁定が取り消されることにより、申立人らを代表選手に選考する被申立人強化委員会決定の効力は維持されることになる(なお、申立人らは、本件スポーツ仲裁パネルに対し、「申立人らを代表選手に選考する」こと自体を求めるが、スポーツ仲裁パネルには、代表選手を選考する権限は与えられていないので、被申立人強化委員会決定が有効であることを確認するにとどめることとする。)。また、第2号裁定のうち、被申立人強化委員会決定が取り消されることを前提として代表選手を選考するための再レース等を命じる部分も取り消されることになり、さらに、第3号裁定のうち、被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考することを求めた申立人らの申立てを棄却した部分も取り消されることとなる。

 被申立人裁定委員会が諸規則に則った対応をしていれば、申立人らが本仲裁申立てに及ぶことはなかったのであるから、申立料金は被申立人の負担とする。

 以上に述べたことから、本件スポーツ仲裁パネルは、主文のとおり判断する。

 なお、C大学クルーは、本件スポーツ仲裁手続に当事者として参加してはいないが、その意向は、意見書という形で被申立人より証拠提出されている。本件スポーツ仲裁パネルは、C大学クルーの意見書も充分に踏まえた上で主文のとおり判断したものであり、C大学クルーも本仲裁判断を尊重するよう、強く期待する。


以上

2015年6月4日

スポーツ仲裁パネル

仲裁人 下條 正浩 

 仲裁人 山内 貴博 

仲裁人 八木 由里 


仲裁地:東京


(別紙)

仲裁手続の経過

1. 2015年5月18日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、「仲裁申立書」「委任状」「補佐人選任届」及び書証(甲第1~14の4号証)を提出し、本仲裁を申し立てた。

2. 同月19日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。

3. 同月20日、被申立人は、機構に対し、「委任状」を提出した。

 同日、申立人は、機構に対し、「証拠説明書1」「証拠申出書」及び書証(甲第15~17号証)を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、「委任状」及び「上申書」を提出した。

 同日、申立人は、機構に対し、「上申書」を提出した。

4. 同月21日、山内貴博は仲裁人就任を承諾し、下條仲裁人を仲裁人長とする、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。

5. 同月25日、被申立人は、機構に対し、「答弁書」「準備書面(1)」「証拠説明書(1)」「証拠説明書(2)」「C大学意見書別紙1~8」及び書証(乙第1~3号証)を提出した。

6. 同月26日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問開催日、審問当日の出席者、証人尋問申請に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。

 同日、申立人は、機構に対し、「証拠説明書2」及び書証(甲第18号証)を提出した。

7. 同月27日、審問開催日時、場所に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。

8. 同月28日、申立人は、機構に対し、「主張書面1」「主張書面2」「照会申立書」「当事者照会書」「証拠説明書3」及び書証(甲第19号証)を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、「準備書面(2)」「照会回答書」「証拠説明書(3)」及び書証(乙第4号証)を提出した。

 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者への釈明、証人尋問申請の却下、主張や書証の提出等に関して「スポーツ仲裁パネル決定(3)」を、両当事者に対する追加の主張書面及び書証の提出要請、C大学端艇部に対する照会に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(4)」を行った。

 同日、機構は、C大学端艇部に対し照会を行った。

9. 同月29日、申立人は、機構に対し、「主張書面3」「主張書面4」「証拠説明書4」及び書証(甲第20号証)を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、「準備書面(3)」を提出した。

10. 同月30日、C大学端艇部に対して行った5月28日付照会に対し、回答書が提出された。

11. 同月31日、申立人は、機構に対し、「主張書面5」「主張書面5別紙(1号裁定答弁書)」及び「主張書面訂正申立書」を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、「証拠説明書(4)」及び書証(乙第5号証)を提出した。

12. 同年6月1日、東京において審問が開催された。

 両当事者から冒頭陳述がなされた後、本件スポーツ仲裁パネルから両当事者に主張内容の確認がなされた。審問期日において、申立人は、機構に対し、「主張書面6」を提出した。また、仲裁パネルから、両当事者は当日中に追加の主張及び書証があれば提出をすることが確認された。

 同日、申立人は、機構に対し、「主張書面7」「証拠説明書5」及び書証(甲第21号証)を提出した。

 本件スポーツ仲裁パネルは、主張及び書証の提出期限の経過に伴い、審理を終結した。


以上

 

以上は,仲裁判断の謄本である。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構

代表理事(機構長) 道垣内 正人



仲裁判断の骨子

仲 裁 判 断 の 骨 子
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2015-003

申立人         X1

            X2

申立人代理人  弁護士 五十嵐 潤

         同  鳩貝 滋


被申立人    公益社団法人日本ボート協会

被申立人代理人 弁護士 鈴木 仁


主   文


本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

1 A及びB(以下「Cクルー」という。)の申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年4月6日付け裁定(2015年(裁)第1号裁定)のうち、被申立人の強化委員会が、2015年3月10日(火)になしたU23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出漕する代表選手の選考決定(以下「被申立人強化委員会決定」という。)のうち、申立人ら(X1及びX2。以下「Dクルー」ということがある。)を代表選手に選考するとの部分を取り消す、との部分を取り消す。

2 Cクルーの申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年5月12日付け裁定(2015年(裁)第2号裁定)のうち、被申立人は、CクルーとDクルーを対象とし、2015年5月22日(金)までに同代表選考に関わる選考レースの実施とその要領(競漕距離を1500m以上とし、審判艇を付する等)を告知し、同年6月7日(日)までに同選考レースを実施せよ、との部分、被申立人は、前項のレースが正常に終了したときには、その先着したクルーを同代表に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよ、との部分、及び被申立人が上記選考レースに関する告知をせず、または同レースへのエントリー等の参加の意思表明がCクルーだけの時は、Cクルーを同代表に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよ、との部分を取り消す。

3 申立人らの申立てに対して被申立人が裁定委員会で行った2015年5月12日付け裁定(2015年(裁)第3号裁定)のうち、被申立人は、被申立人強化委員会決定のとおり、Dクルーを代表選手に選考し、U23世界選手権に関する所要のエントリー手続をせよとの申立てを棄却する、との部分を取り消す。

4 被申立人強化委員会決定のうち、DクルーをU23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出漕する代表選手に選考する部分が有効であることを確認する。

5 申立人らのその余の請求を棄却する。

6 申立料金合計108,000円は、被申立人の負担とする。


 本件は、緊急仲裁手続であるので、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第50条第5項に基づき、以下に理由の骨子を示し、規則第44条に基づく仲裁判断は、後日作成し、申立人及び被申立人に送付する。

 

理由の骨子

1 事案の概要

 被申立人は、U23世界選手権軽量級スィープカテゴリーに出場する日本代表選手を選考するに当たり、2015年3月9日のタイムトライアルで1位となったクルーと、同月10日の最終選考レース(以下「本レース」という。)で1位及び2位となったクルーの計6名を代表選手に決定するとの選考基準を告知していた。当該告知の内容に従って行われた本レースで申立人らクルーが2位となり、被申立人強化委員会は、同月10日に申立人らを代表に選考する決定(以下「被申立人強化委員会決定」という。)をなした。

 しかし、本レースで3位となったCクルーは、本レースにおいて申立人らクルーとCクルーとの間で接触やレーン侵害が発生したと主張し、かつ、本レースは主審不在の中実施されたために、主審の取るべき対応が何ら取られないまま、着順どおりに順位が決定されたものであり、その結果を基に申立人らを代表選手に選考する被申立人強化委員会決定は取り消されるべきであると主張して、被申立人強化委員会決定の全部の取消しを求めて、被申立人裁定委員会に対して裁定を申し立てた(本裁定手続に申立人らは補助参加した。)。被申立人裁定委員会は、資格を有する審判が伴走車に乗っており、同様の形態で行われた他のレースが特段の問題なく終了していること等から、Cクルーによる主審不在との主張は認めなかったが、本レースの記録映像等を検証の上、本レース中に、申立人らクルーがCクルーのレーンを侵害し、申立人らクルーとCクルーのオールが極めて接近もしくは交錯したという事実を認定し、それらの事象が原因でCクルーの切込みや艇の停止が発生し、正常なローイングが阻害されているため、本レースの結果は、選考資料としての価値を大きく減殺され、本レースのゴール順をそのまま代表選考の資料、それも唯一かつ絶対の資料とすることは極めて不適切・不適当であるとして、被申立人強化委員会決定のうち、申立人らを代表選手にするとの部分を取り消した(以下「第1号裁定」という。)。

 この裁定委員会の裁定を受け、被申立人の業務執行会議は、2015年4月17日、すでに決定している2クルー(4選手)以外は代表選手として選考しないことを決定した(以下「本件4月17日付選考決定」という。)。

 これに対してCクルーは、本件4月17日付選考決定の取消しと、申立人らとCクルーの再選考レースの実施等を、一方、申立人らは、本件4月17日付選考決定の取消しと、被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考すること等を求めて、それぞれ裁定委員会に裁定の申立てを行った。被申立人裁定委員会は、Cクルーの申立て内容を全面的に認め再選考レースを命ずる裁定を出し(以下「第2号裁定」という。)、申立人らの申立てについては、本件4月17日付選考決定を取り消すものの、申立人らを代表選手に選考するとの申立ては棄却する裁定を出した(以下「第3号裁定」という。)。

 そこで、申立人らは、第1号裁定のうち、2015年3月10日になされた被申立人強化委員会決定を取り消すとした部分、第2号裁定のうち、申立人らとCとの再選考レース等を命じる部分、第3号裁定のうち、被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考せよとの申立てを棄却した部分につき、それらの取消しを求めて、本仲裁を申し立てた。


2 本件スポーツ仲裁パネルの判断

(1) 本案前の答弁について


 被申立人は、申立人らが取消しを求めている第1号裁定及び第2号裁定はすでに確定しており、また、これらの裁定手続の当事者ではなかった申立人らが不服を申し立てうる地位にはそもそもないと主張して、第1号裁定と第2号裁定のそれぞれ上記部分の取消しを求める申立ては却下されるべきと主張した(以下「本案前の答弁」という。)。

 申立人らは、第1号裁定及び第2号裁定により、自らの代表選手としての立場を失うという直接的な影響を受ける者である。よって、スポーツ仲裁規則第2条第1項にいう「決定に不服がある競技者等(その決定の間接的な影響を受けるだけの者は除く。)」に該当することは、明らかである。

 なお、確かに、被申立人の裁定委員会規定には、以下の規定が存在する。

 第19条(裁定判断の効力)

 1. 裁定委員会の裁定判断が、不服申立を認容し、決定等を取り消すもの等である場合、この判断は本会(理事会)を拘束し、本会は、これに従うものとする。

 2. 裁定委員会の裁定判断が、不服申立を棄却した場合、この判断を不服とする申立人は、仲裁機構に仲裁の申立をすることができる。

 第20条(裁定前置主義)

 前条第2項のとおり、決定等について仲裁機構に仲裁の申立をするためには、裁定委員会による裁定手続を経なければならない。

 しかし、被申立人の決定等を取り消す裁定委員会の裁定判断に関し利害関係を有する者は、その裁定判断の当事者に限られるわけではないところ、そのような利害関係人に不服申立権が認められないのでは、手続保障に欠け、制度設計として妥当ではない。そこで、第19条第1項の規定は、裁定委員会の不服申立認容裁定に、被申立人は異議を述べずこれに拘束されることを自主的に宣言したものにすぎず、その他の利害関係人も拘束する対世効を裁定に認めたものではないと解する。また、同条第2項は、申立てを棄却する裁定判断に対し申立人がさらに不服を申し立てるという典型的な場面を想定したものにすぎず、決定等を取り消す裁定委員会の裁定判断に利害関係を有する者がいる場合には、その者もまた、日本スポーツ仲裁機構に仲裁の申立てを行うことができるとの趣旨を含むものと解すべきである。なお、第20条についても、申立人らが取消しを求めている被申立人の決定は、いずれも裁定委員会の裁定であり、「裁定前置」という要件も満たしている。以上のとおり、被申立人の裁定委員会規定は、申立人らが第1号裁定及び第2号裁定について、日本スポーツ仲裁機構に不服申立てを行うことの障害にはならない。

 よって、被申立人の本案前の答弁は認められない。


(2) 本案について


 続いて、本案について判断する。第1号裁定により被申立人強化委員会決定が覆らなければ、第2号裁定及び第3号裁定もあり得なかったのであるから、まず、第1号裁定の当否を判断する。

 当機構における過去の仲裁判断では、「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、または④国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができる」との判断基準が示されており、本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。

 被申立人の裁定委員会規定には、「競技中になされた審判の判定」は裁定の対象とはならないことが明記されている(裁定委員会規定第2条)。また、被申立人の競漕規則によれば、「主審は、競漕中、各艇の漕跡の正当性を判断し、接触または妨害の場合、その責任の帰属を即座に決定しなくてはならない。この決定は主審だけが行う。」(被申立人競漕規則第40条)、「競漕に関するものである限り、審判の決定は最終とし提訴は認められない。又、いかなる時点においても、審判の決定に対する批判は許されない。」(同第63条)と明記されている。

 しかし、第1号裁定の内容は、本レースの記録映像を検討するなどして申立人らクルーにレーン侵害等があったという事実認定をした上で、主審には事実誤認があり、対応も不十分であったとの認定をしているのであって、結局、第1号裁定は「競技中になされた審判の判定」の領域に踏み込んで判断を行っていることに他ならない。したがって、第1号裁定は、被申立人自身が定めた裁定委員会規定にも、競漕規則にも反したものであり、上記「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合」に該当している。したがって、第1号裁定は取り消されるべきである。

 この点につき、被申立人は、第1号裁定は本レースの資料価値を評価したものであって、同レースの着順を変更するものではないと主張する。しかし、被申立人は本レースで上位の2クルーを代表に決定するとの選考基準を、事前に決定し公開しているのであり、この選考基準は、本レースの着順のみに基づいて代表選考をするといういわば一発勝負による選考である。したがって、本レースの着順自体に変更がないとしつつ、2位であった申立人らの代表選考を取り消すとした第1号裁定は、被申立人が事前に決定し公開していた選考基準にも反するものである。したがって、この点においても、上記「①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合」に該当することとなり、第1号裁定は取り消されるべきである。

 以上の理由から第1号裁定が取り消されることにより、申立人らを代表選手に選考する被申立人強化委員会決定の効力は維持されることになる(なお、申立人らは、本件スポーツ仲裁パネルに対し、「申立人らを代表選手に選考する」こと自体を求めるが、スポーツ仲裁パネルには、代表選手を選考する権限は与えられていないので、被申立人強化委員会決定が有効であることを確認するにとどめることとする。)。また、第2号裁定のうち、被申立人強化委員会決定が取り消されることを前提として代表選手を選考するための再レース等を命じる部分も取り消されることになり、さらに、第3号裁定のうち、被申立人強化委員会決定のとおり申立人らを代表選手に選考することを求めた申立人らの申立てを棄却した部分も取り消されることとなる。

 被申立人裁定委員会が諸規則に則った対応をしていれば、申立人らが本件申立てに及ぶことはなかったのであるから、申立料金は被申立人の負担とする。


(3) 結論


 以上に述べたことから、本件スポーツ仲裁パネルは、主文のとおり判断する。


 なお、Cクルーは、本件スポーツ仲裁手続に当事者として参加してはいないが、その意向は、意見書という形で被申立人より証拠提出されている。本件スポーツ仲裁パネルは、Cクルーの意見書も充分に踏まえた上で主文のとおり判断したものであり、Cクルーも本仲裁判断を尊重するよう、強く期待する。

 

以上

2015年6月4日

スポーツ仲裁パネル

仲裁人 下條 正浩 

仲裁人 山内 貴博 

仲裁人 八木 由里 


仲裁地:東京


 

以上は,仲裁判断の謄本である。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構

代表理事(機構長) 道垣内 正人


  ※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。


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