仲裁判断

 
仲 裁 判 断
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2013-022

申立人 : X

被申立人 : 公益財団法人 日本自転車競技連盟

 

主 文

 

本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

(1)2013年7月20日に開催された第26回全日本マウンテンバイク選手権大会・クロスカントリー女子競技について、被申立人が申立人に対してなした降格処分を取り消す。

(2)申立人のその余の請求を却下する。

(3)申立料金5万円は、被申立人の負担とする。

 

理 由

 

第1 当事者の求めた仲裁判断

 

1 申立人は次のとおりの仲裁判断を求めた。

2013年7月20日に開催された第26回全日本マウンテンバイク選手権大会・クロスカントリー女子競技について、被申立人が申立人に対してした降格処分を取り消し、かつ優勝とすることを求める。

 

2 被申立人は次のとおりの仲裁判断を求めた。

申立人の請求をいずれも棄却する。

 

第2 仲裁手続の経過

別紙に記載のとおり。

 

第3 事案の概要

 

1 当事者

 

(1)申立人

 申立人は、自転車競技のマウンテンバイク種目の競技者であり、Aに所属している。

(2)被申立人

被申立人は、日本国内における自転車競技を統括する公益財団法人である。

 

2 本件紛争の概要

 

(1)被申立人は、2013年7月20日、第26回全日本マウンテンバイク選手権大会(以下「本大会」という。)のクロスカントリー女子競技(以下「本件競技」という。)を開催し、申立人が本件競技に競技者として参加した。

 

(2)本件競技中、申立人の自転車のチェーンが切れたため、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)でチェーンを交換し(以下「本件修理」という。)、申立人は1位でフィニッシュした。斜字部分は国際自転車競技連合(以下「UCI」という。)の規則及び被申立人による日本語翻訳である。

 

(3)チーフ・コミセールは、本件競技終了後、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)が本件修理の際自己のチーム以外の者からチェーンの提供を受けたとの理由で、申立人を4位への降格処分とした(4位への降格処分を「本件決定」という。)。

 

(4)本件は、申立人が、本件決定の取消し、及び申立人を優勝とすることを求めた事案である。

 

3 本件紛争の事実経過

以下の事実経過については、当事者間に争いがない。

 

(1)被申立人は、2013年7月20日、本大会を開催し、申立人が本件競技に競技者として参加した。

 

(2)本大会の大会プログラム2頁には、[COLLEGE OF COMMISSAIRE]として、以下のとおり記載されていた。

 

◆プレジデント        B(△△)

◆バイス・プレジデント    C(△△)

◆スタートライン       D(△△)

◆フィニッシュライン     E(△△)

◆セクレタリ         F(△△)

 

◆テクニカルデレゲート    G(△△)

 

◆レースディレクター     ○○○/XCO、○○○/DHI

◆スーパーバイザー      ○○○

◆マーシャルコーディネーター ○○○/XCO、○○○/DHI

 

◆計時計測          ○○○

◆放送            ○○○、○○○/

               ○○○

 

(3)本件競技については、コミセールB(プレジデント)、同C(バイス・プレジデント)、同D(スタートライン)、同E(フィニッシュライン)、同F(セクレタリ)がコミセール・パネルを構成し、Bがチーフ・コミセールであった。コミセールは、相互に専用の無線機にて、連絡を取り合うことが可能な状態であった。

 

(4)本件競技中、申立人の自転車のチェーンが切れたため、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)でチェーンを交換した。
 なお、"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)を担当するコミセールは、バイス・プレジデントのCであった。Cは、本件修理の状況を現認したが、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)がチーム外の者からチェーンの提供を受けた事実は確認していなかった。

 

(5)申立人は、本件修理の間に抜かれた他の選手を追い抜いて、1位でフィニッシュした。申立人を優勝者とするリザルト(コミュニケ№20)は、13時34分に掲示された。

 

(6)申立人を優勝者とするリザルトが掲示された後、男子エリートクロスカントリーがスタート(スタートは14時の予定)するまでの間に、スタッフユニホームを着用していた氏名不詳者から、チーフ・コミセールに対し、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)が本件修理の際、自己のチーム以外の者からチェーンの提供を受けたとの報告があった。チーフ・コミセールが"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)を担当していたコミセールのCに確認したところ、Cは、本件修理の状況を現認していたが、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)がチーム外の者からチェーンの提供を受けた事実は確認していない旨回答した。

 

(7)前記のスタッフユニホームを着用していた氏名不詳者は、チーフ・コミセールに対して、男子エリートクロスカントリーがスタートし、15時30分頃にゴールするまでの間に、再度、申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)がチーム外の者からチェーンの提供を受けたこと、この他チームがHであることを報告した。

 

(8)男子エリートクロスカントリーのリザルトは、15時49分に掲示された。チーフ・コミセールは、15時50分頃までの間に、HのIから事情を聴取し、Iが申立人の"team mechanic"(チーム・メカニシャン)に対してチェーンを提供した事実を把握した。チーフ・コミセールは、コミセール・パネルを構成する5人のコミセールの内、コミセールFとコミセール・パネルではないテクニカルデレゲートGとのみ協議して、申立人を失格処分とすることを決し、申立人を失格とする内容に変更したリザルトを16時頃掲示した。

 

(9)チーフ・コミセールは、16時30分頃、申立人及び申立人の所属するチームのコーチであるJに対し、申立人を失格処分とすることを通知した。その後、チーフ・コミセールは、申立人及びJとの協議で、失格の処分を変更し、4位への降格処分とすることで合意し、失格処分から4位への降格する旨に変更したリザルトを18時36分に掲示し、正式リザルトとしては、翌日9時17分にリザルト(コミュニケ№20)を発表した。正式リザルトには、「*X選手は、条項4.2.048に抵触したため降格とした。」との記載が付記された。

 

4 本件修理に関する当事者の主張とこれに対する認否

 

(1) 適用ルールについて

適用ルールに関し、以下の点については当事者間に争いがない。

ア 被申立人競技規則(以下「JCF規則」という。)第1条は、「この競技規則は、国際自転車競技連合(以下UCIという)の定款及び諸規則を規範として制定する。これら規則に変更のあった場合には、準拠して改訂する。」と規定しており、JCF規則は原則としてUCI規則の翻訳により成り立っている。JCF規則の引用部分は斜字とした。

イ JCF規則(2013年4月改定)第2条は、「この競技規則は、公益財団法人日本自転車競技連盟(以下「本連盟またはJCF」という)または加盟団体の主催する国内競技日程以下の自転車競技大会に適用する。」と定めているところ、本大会は、被申立人が主催する国内競技日程以下の自転車競技大会である。したがって、本大会には、JCF規則が適用される。

ウ JCF規則第92条に基づき、マウンテンバイク競技には、UCI国際マウンテンバイク規則が適用される(マウンテンバイク規則第92条の「マウンテンバイク競技は、UCI国際マウンテンバイク規則による。」以外の部分は、UCI国際マウンテンバイク規則の日本語訳としての参考文としての役割を有していることになる。)。

エ UCI規則"PART 4 MOUNTAIN BIKE RACES"(マウンテンバイク・レース)"CHAPTER Ⅱ CROSS COUNTRY EVENTS"(クロスカントリー競技)"§ 6. Technical assistance"(技術的支援)には、許される技術支援の条件が以下のとおり定められている。
4.2.045 Technical assistance during a race is permitted subject to the conditions below.次の状態を条件としてレース中の技術支援は許可される。
4.2.046 Authorised technical assistance during a race consists of repairs to or the replacement of any part of the bicycle other than the frame. Bike changes are not permitted and the rider must cross the finishing line with the same handlebar number plate that he had at the start.許可される技術支援は、競技中のフレーム以外の自転車部品の修理および交換による。自転車そのものの交換は許されない。また、競技者はスタート時と同じナンバー・プレートを装着してフィニッシュしなければならない。
4.2.047 Technical assistance can only be given in the feed/technical assistance zones.技術支援は補給/技術支援ゾーンにおいてのみ行うことができる。
4.2.048 Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones. Repairs and equipment changes can be carried out by the rider himself or with the help of a teammate, team mechanic or neutral technical assistance. Small items such as an inner tube or a small tool may be handed up from the feed/technical assistance zones.交換部品、修理工具類はこれらゾーン内に置いておかなければならない。競技者は自ら、またはチームメイト、チーム・メカニシャンあるいは共通技術支援者の助力を得て修理または部品交換を行うことができる。インナー・チューブのような小部品や小工具補給/技術支援ゾーンにおいて手渡すことができる。
4.2.049 In addition to technical assistance in feed zones, technical assistance is permitted outside these zones only between riders who are members of the same UCI ELITE MTB Team, UCI MTB team or of the same national team. Riders may carry tools and spare parts provided that these do not involve any danger to the rider himself or the other competitors.補給ゾーンでの技術支援に加え、技術支援は補給ゾーン外でも、同じUCI エリートMTB チーム、UCI MTB チームあるいは同じナショナル・チームのメンバーである競技者間であれば許される。競技者は、競技者自身あるいは他の競技者に危険及ぼすことがなければ工具、交換部品を持参することができる。

オ 本件修理が本大会に適用される規則に違反しているか否かの判断は、以上のUCI規則"PART 4 MOUNTAIN BIKE RACES"(マウンテンバイク・レース)"CHAPTER Ⅱ CROSS COUNTRY EVENTS"(クロスカントリー競技)"§ 6. Technical assistance"(技術的支援)に基づいて判断される。被申立人は、本件修理が、UCI規則4.2.048 "Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones. Repairs and equipment changes can be carried out by the rider himself or with the help of a teammate, team mechanic or neutral technical assistance. Small items such as an inner tube or a small tool may be handed up from the feed/technical assistance zones."(交換部品、修理工具類はこれらゾーン内に置いておかなければならない。競技者は自ら、またはチームメイト、チーム・メカニシャンあるいは共通技術支援者の助力を得て修理または部品交換を行うことができる。インナー・チューブのような小部品や小工具補給/技術支援ゾーンにおいて手渡すことができる。)の第1文あるいは第2文に違反したと主張し、申立人がこれを争っている。

 

(2)UCI規則4.2.048の解釈に関する当事者の主張

ア 本件修理に使用されたチェーンが競技開始時において競技者の所属チームの支配下にある必要があるか(第1の争点)。

ⅰ 本件修理に使用されたチェーンは、競技開始時においては、

・ 申立人チームの所有物ではなく、かつ、申立人チームの支配下にもなく、

・ チームHの所有ないし支配下にあったこと、

・ 競技開始時から本件修理時まで"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)に置かれていたこと、

については、当事者間に争いはない。

ⅱ 申立人の主張

申立人は、UCI規則4.2.048の第1文"Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones."(交換部品、修理工具類はこれらゾーン内に置いておかなければならない。)の解釈として、修理に使用される"Spare equipment and tools for repairs"(交換部品、修理工具類)は、修理時において"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)に置かれていることは必要であるが、この明文上の条件を超えて、競技開始前から所属チーム所有物であること、あるいは、占有していることが、技術支援を受ける条件とはならない。したがって、本件修理に用いられたチェーンの所有者あるいは占有者が競技開始時において所属チームでなくても、UCI規則4.2.048の第1文に違反しないと主張する。

ⅲ 被申立人の主張

被申立人は、UCI規則4.2.048の第1文"Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones."(交換部品、修理工具類はこれらゾーン内に置いておかなければならない。)の解釈として、審問前においては、"Spare equipment and tools for repairs"(交換部品、修理工具類)は、競技開始前から所属チーム所有物として"must be kept in these zones"(補給/技術支援ゾーンに置いておかなければならない)。本件修理に用いられたチェーンは、競技開始時において所属チーム所有物ではないから、UCI規則4.2.048の第1文に違反すると主張した。
しかしながら、被申立人は、審問の場において、所属チームが、"Spare equipment and tools for repairs"(交換部品、修理工具類)を事前に借り受けて、"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)に置いた場合に規則違反になると主張する実質的な根拠を本件スポーツ仲裁パネルから尋ねられた際に、競技開始時に所属チームの所有物であることは要件ではなく、所属チームの支配下にあれば、その占有権原が所有権であるか否かを問わないと主張を変更した。

イ 競技者の所属チームの"team mechanic"(チーム・メカニシャン)が本件修理を行っても、本件修理に使用されたチェーンが競技者の所属チーム以外の者から提供された場合は、4.2.048の第2文に違反するか(第2の争点)。

ⅰ 本件修理は、"the feed/technical assistance zones"(補給/技術支援ゾーン)で行われたこと及び申立人所属のチーム外の者であるチームHのIが申立人チームの"team mechanic"(チーム・メカニシャン)に本件修理に使用されたチェーンを渡したものであることについては、当事者間に争いはない。

ⅱ 申立人の主張

申立人は、UCI規則4.2.048の第2文の明文上、修理が"team mechanic"(チーム・メカニシャン)によって行われていれば違反には該当しないと主張する。また、競技の際は、現実にチーム外からの貸与物及び供与物並びに共有物を使用しており、特に工具は相当の範囲で共有して使用している実態があると主張した。

ⅲ 被申立人の主張

 UCI規則4.2.048の第1文及び第2文解釈に関し、マウンテンバイク競技の特性に照らして、以下のとおり解釈すべきである。

a マウンテンバイク競技は、1970年代に起源を持つ山野を走破するための自転車である"マウンテンバイク"を利用して競技化したものである。したがってマウンテンバイク競技者には競技中に起こりうる事態に対してアルピニストと同様な自己責任が求められ、またコースも長大にわたるので事実上他からの支援を得ることは期待できないものであるところから、必要な工具と部品を持参して競技し、持参したもののみを使用して競技者自身で修理すべきことが創成期の規則であった。

b マウンテンバイク競技が1996年アトランタ大会からオリンピック種目に採用され、その後比較的短周回のサーキットで行なわれる競技が主流となっていったことから、それに応じて規則も変遷してきたのである。

c 2007年9月25日に現行規則となる前は、次のとおりの規定であった。

○ 1999年版UCI(国際自転車競技連合)規則第Ⅳ部「マウンテンバイク競技」条項1.8.3.5.
1.8.3.5 A rider cannot receive any technical assistance along the course from anybody including competitors.競技者はコース内で、他の競技者を含むいかなる者からも一切の技術的援助を受けてはならない。

○ 2005年1月1日には次のように改訂された
1.8.3.4 Except for authorised technical assistance in cross-country events, riders may not seek and receive any technical assistance along the course from anybody including competitors.クロスカントリー競技の認可された技術支援(オーソライズド・テクニカル・アシスタンス)を除いて、競技者は他の競技者を含む第3者から技術的支援を求めたり受けてはならない。
以上により、被申立人は、チーム以外の者から"team mechanic"(チーム・メカニシャン)が交換部品の提供を受けて修理を行うことは、許された技術支援に該当しないと主張する。

 

(3)以下の事実については、当事者間に争いがない。

ア 被申立人は、同人のUCI規則4.2.048の第1文及び第2文の上記解釈を基礎づける次の規定、決定または文書は存在しないことを認める。

i UCI規則上の明文上の定めはないこと。

ii UCIが発行するUCI 規則の解説書などの文書はないこと。

iii CAS(スポーツ仲裁裁判所)が判断している先例はないこと。

iv 被申立人は、同人のUCI規則4.2.048の第1文及び第2文の解釈を、本大会以前に文書をもって公表したことはないこと。

イ 被申立人はUCIに対して、被申立人のUCI規則4.2.048の解釈がUCIの解釈と同一であるかどうかについて、問い合わせも確認もしていない。

 

5 チーフ・コミセールの裁定に関する当事者の主張とこれに対する認否

 

(1)チーフ・コミセール及びコミセール・パネルの任務について、JCF規則第13章「総務および競技担当役員の任務」第56条(チーフ・コミセール)及び第57条(コミセール・パネル)は、以下のとおり規定している。

第56条(チーフ・コミセール)

チーフ・コミセールは、コミセール・パネルの責任者であり、競技の審判と進行を総括する。ロード・レースなどで特にレース・ディレクタをおく場合以外は、チーフ・コミセールが競技進行に関し指示する。

第57条(コミセール・パネル)

コミセール・パネルは、チーフ・コミセールを中心に競技の進行を管理監督する。コミセール・パネルは、チーフ・コミセールを補佐し、参加競技者のライセンス・コントロールと装備・機材の検査および競技番組の編成等に責任をもち、競技の審判業務を担当する。

国内の競技大会においては、チーフ・コミセールを含む3名または5名でコミセール・パネルを構成する。

1. コミセール・パネルは、競技規則に基づいて大会特別規則を照合する。これが整合しない場合、修正しなければならず、また、修正された規則についてチーム監督・代表者会議で説明しなければならない。

2. コミセールは、違反行為と、その権限において科したペナルティを記録しなければならない。各コミセールは個々に、違反を監視し、それらを署名した報告書に記録する。コミセールの報告書は、最終的な監視した事実で構成する。
ペナルティはコミセール・パネルでの多数決により宣言される。
コミセール・パネルは、その解散の瞬間までに気付いた違反に関して意見を言うことができる。

3. 各コミセールは個々に下記の手段を講じることができる。

① UCIおよび/またはJCF規則に合致していないか、あるいは明らかにレースに出場できる状態ではない競技者に対して出場を拒否することができる。

② 警告、制裁を与えることができる。

③ 次の場合、即刻レースから失格させることができる。

・ その競技者は明らかにレースを続行することができない場合。

・ 相当な距離の遅れがひどく、レースについていけないとき。

・ 他の競技に危険を与えるおそれがあるとき。

以上の決定は署名した報告書によりなされる。

4. コミセール・パネルもしくは必要であれば個々のコミセールは、正常に競技が行われることを保証するに必要な決定を下すことができる。これらの決定は規則の条項を適用してなされ、可能な限り大会本部と相談のうえ行う。
適切な時間内に修正できない規則違反があった場合、競技のスタートを遅らせるか、競技を停止してよい。必要であれば、コミセール・パネルは自身の主導あるいはUCI・JCFの訓令により撤退してよい。

5. コミセールの指示に従わないライセンス所持者は、1日から6ヵ月の資格停止と罰金を科される。

6. ロードおよびマウンテンバイク競技大会において、コミセール・パネルは、第52条5.(1)にて要求される国内連盟の参加許可を調べなければならない。

第58条(アシスタント・コミセール)

アシスタント・コミセールは、競技大会の主管者が指名し総務委員長、競技委員長が承認する。その任務として、チーフ・コミセールの指示に従い審判業務にあたる。
アシスタント・コミセールが、当該競技大会の前日に不在の場合、コミセールは、必要な指示すべてを与えるために、競技の開始前にアシスタント・コミセールの会議を開く。

 

(2)チーフ・コミセール及びコミセール・パネルの任務について、UCI規則は、"PART 1 GENERAL ORGANISATION OF CYCLING AS A SPORT"(スポーツとしての自転車競技組織)"Chapter Ⅱ RACES"(レース)"Section4: supervision of races"(競技の監理)において以下のとおり規定している。

§3 Powers of the Commissaires' Panel§3 コミセール・パネルの権能

1.2.126 The Commissaires' Panel shall verify that the specific race regulations comply with the present Regulations. It shall rectify or have rectified any provisions that do not comply and shall mention that fact during the meeting with the organiser and Team Managers.コミセール・パネルは、その競技の特別規則が現在のUCI規則に合致しているかどうか確かめなければならない。規則に合致しない規則は、修正し、修正した条項について、主催者、チーム監督会議で言及しなければならない。

1.2.127 The Commissaires' Panel shall have any irregularity it may observe in the organisation of the race rectified.コミセール・パネルはレース運営の中で変則的なものに気付いた場合はそれを是正しなければならない。

1.2.128 The Commissaires shall note infringements and impose penalties in matters within their authority. Each commissaire shall individually observe infringements and note them in a report bearing his signature. Commissaires' reports shall constitute conclusive evidence of the facts they observe, save proof to the contrary. Penalties shall be imposed by the Commissaires' Panel by a majority vote.コミセールは違反を記録し、自己の権限の範囲でペナルティを科すことができる。個々のコミセールは発見した違反を記録し、署名の上、報告しなければならない。コミセールの報告書はコミセールが観察した事実にもとづくもので、コミセールの判断に対する反論を退ける決定的な証拠となる。ペナルティはコミセール・パネルの賛成多数の場合は科せられる。

1.2.129 Moreover each commissaire shall be individually entitled to take following measures:
1. to refuse to allow riders who do not comply with The Regulations or who are manifestly not in any condition to participate in the race to participate in the race
2. to give warnings and to inflict an admonition
3. to immediately disqualify from the competition a rider who commits a serious fault, who is manifestly no longer in any state to continue the competition, who has dropped so far behind as to not be able to catch up again or who constitutes a danger to other persons.
Such decisions shall be set down in a signed report.
さらに、コミセールは次の方策を執る権限を有する。
1. UCI 規則に合致していないか、あるいは明らかにレースに出場できる状態ではない競技者に対して出場を拒否すること
2. 警告、訓戒を与えること
3. 次の場合、即刻競技から失格させること
・その競技者は明らかに競技を続行できないとき、
・相当な距離の遅れがひどくレースについて行けないとき、
・他の競技者に危険をあたえるおそれがあるとき。
これらの決定は直ちに署名した報告書とされる。

1.2.130 The Commissaires' Panel or, if necessary, each individual commissaire, shall take all decisions that may be required to ensure the proper conduct of the race. Those decisions shall be taken in keeping with the applicable provisions of The Regulations and, to the extent of the possible, after consulting the Race Administration. In the event of any non-compliance that cannot be rectified in good time, the start of the event may be delayed or cancelled or the event may be stopped. The Commissaires' Panel may withdraw if necessary, either at its own initiative or upon the instruction of the UCI.コミセール・パネルあるいは必要に応じて個々のコミセールはレースを正しく導くためにあらゆる決定を行うことができる。この決定は、UCI規則の適用できる条項に従い、可能な範囲でレース運営者と協議の上行われる。適切な時間内に修正できない規則違反があった場合、競技のスタートを遅らせるか、競技を停止してよい。必要であれば、コミセール・パネルは自身の主導あるいはUCIの訓令により撤退してよい。

1.2.131 Licence-holders who do not follow the instructions of commissaires shall be penalised by a suspension of between one day and six months and/or by a fine of 100 to 10,000 Swiss francs.コミセールの指示に従わないライセンス保持者は、1日から6カ月のライセンスの一時停止および/または100から10,000スイスフランの罰金を科す。

1.2.132 Without prejudice to article 12.1.012 on disciplinary matters, no appeal shall be admitted against observations of fact, assessments of the situation in races and application of the competition regulations by the Commissaires Panel or, where appropriate, an individual commissaire, or against any other decisic taken by them.懲戒に関する第12.1.012条を損なわない限り、コミセール・パネルあるいは適切な場合1人のコミセールによる事実の観察、競技における状況の評価、競技規則の適用あるいはその他の決定に対するいかなる異議申立ても認められない。

 

(3)申立人の主張

ア マウンテンバイク競技は、トラック・レースでもロード・レースでもタイムトライアル・ロード・レースでもないから、これらの競技に関するJCF競技規則第59条2.①、第60条2.①及び第61条2.①は、マウンテンバイク競技には適用されないし準用されない。UCI規則1.2.130は、チーフ・コミセールにペナルティの決定権限を付与した規定ではない。したがって、マウンテンバイク競技においては、チーフ・コミセールの裁定が最終的なものではない。

イ なお、本件に関してコミセール・パネルの決定があったかどうかは不明である。

 

(4)被申立人の主張

被申立人は、以下のとおり主張した。

ア 「コミセール・パネルに制裁の権限があることに同意する。制裁の決定事項については、パネルの責任者であるチーフ・コミセール(UCI 規則における正式名称はプレジデント・オブ・ザ・コミセール・パネル = President of the Commissaires' Panel)名で発表される。実際の競技大会においては、パネル・メンバーが競技会場の各地に分散している場合が多く、多数決をとることが困難なので、チーフ・コミセールがパネルの責任者として、パネル・メンバーよりの報告や意見を基に専決することが通常である。本大会においては、」「違反行為に関する報告が男子エリート競技の開始後であったため、パネルメンバーもスタート/フィニッシュ地点、フィード・ゾーンに配置されて審判業務についており、チーフ・コミセールと同じ場所のコントロール・タワーに配置されていたメンバーは、レース・セクレタリのみであった。そこでチーフ・コミセールは、コントロール・タワーに居た技術代表とパネル・メンバーであったレース・セクレタリの意見を聞いた上で申立人を失格とする決定をしたものである。」

イ JCF競技規則第59条(トラック・レース競技担当役員の任務)2.①、第60条(ロード・レース競技担当役員の任務)2.①及び第61条(タイムトライアル・ロード・レース競技担当役員の任務)2.①には、いずれも、チーフ・コミセールは、「規則に基づいたあらゆる決定をし、また、規則に規定していない事項についてもその解決を図るためのあらゆる権限を持つ。」と定められており、マウンテンバイク競技についてはこれと同様の規定はないが、競技運営管理責任者としてのチーフ・コミセールの任務は各競技部門に共通するものであるから、これらの規定はマウンテンバイクについても準用ないし類推適用されると解すべきである。本件は、規則に直接的・具体的な定めのない事項であるから、解釈上合理性を有する限り、これについてのチーフ・コミセールの裁定は最終的なものである。

ウ 被申立人は、審問の場において、本件スポーツ仲裁パネルから、コミセール・パネルの運用としてチーフ・コミセールが、コミセールを一同に会して多数決を経ることなく、他のコミセールの意見を聴取した上でコミセールパネルの多数の意見を宣言する権限があると主張するものか、あるいは、ペナルティの決定はチーフ・コミセールの専権であると主張するものかについての釈明を受け、イの主張のみを維持する旨回答し、アの主張を撤回した。なお、被申立人は、イの主張のUCI規則上の根拠は、JCF規則の上記規定に加えてUCI規則1.2.130であると主張した。

 

第4 判断の理由

 

1 競技中になされる審判の判定でないことについて

本件は競技終了後の被申立人の判断を対象とするものであることについては当事者間に争いがない。したがって、「競技中になされる審判の判定」(スポーツ仲裁規則第2条1項本文かっこ書き)に関するものではなく、スポーツ仲裁規則の適用対象である。

 

2 判断の基準について

 日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断の先例によれば、スポーツ仲裁における仲裁判断基準は、
「日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟(被申立人もその一つである)については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならない。仲裁機関としては、1)国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、2)規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、3)決定に至る手続に瑕疵がある場合、または4)国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができると解すべきである。」
と判断されており、本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。

よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。

 

3 本件修理はUCI規則4.2.045以下の要件を満たす技術支援かどうかについて

 

(1)UCI規則の改訂の経緯に照らすと、許される技術支援の範囲については変遷があり、時代の経過に伴って一切の技術的支援が禁止されていたものが、一定の技術支援が受けられるように改訂されてきた事実が認められる。ところで、いかなる技術支援が許されるのかについては、その当時の規定によって判断されるべきものである。規定に変遷があるとの理由で、競技団体が許される技術支援の範囲を、明文の規定より厳格な基準で運用できる権限があるとは認められない。

 

(2)被申立人は、UCI規則4.2.048の第1文及び第2文の解釈に関して、
・ UCI規則上の明文上において、
・ UCIが発行するUCI規則の解説書などの文書において、
・ CAS(スポーツ仲裁裁判所)が判断している先例上において、
被申立人の解釈を基礎づける証拠は存在しないことは自認する。

したがって、UCI規則4.2.048の第1文及び第2文の解釈は文言解釈を原則とする。

 

(3)UCI規則を検討するに、4.2.048の第1文は、その文言上、"Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones."(交換部品、修理工具類はこれら補給/技術支援ゾーン内に置いておかなければならない。)ことを、求めてはいるものの、競技者は自ら、またはチームメイト、チーム・メカニシャンあるいは共通技術支援者が、競技開始時において"Spare equipment and tools for repairs"(交換部品、修理工具類)を「所有すること」あるいは「支配下に置くこと」までは求めているものではないことが明らかである。したがって、本件修理に使用されたチェーンは、"Spare equipment and tools for repairs must be kept in these zones."(交換部品、修理工具類はこれら補給/技術支援ゾーン内に置いておかなければならない。)のUCI規則4.2.048の第1文の条件を満たしている。

 

(4)UCI規則4.2.048の第2文は文言上、"Repairs and equipment changes can be carried out by the rider himself or with the help of a teammate, team mechanic or neutral technical assistance."(競技者は自ら、またはチームメイト、チーム・メカニシャンあるいは共通技術支援者の助力を得て修理または部品交換を行うことができる。)ことを求めているだけであり、"team mechanic"(チーム・メカニシャン)がチーム外の第三者が提供した部品の提供を受けることを禁止することは条件とされていない。本件修理は、"team mechanic"(チーム・メカニシャン)によりなされたことは当事者間に争いがなく、本件修理は、"team mechanic"(チーム・メカニシャン)によりなされたとのUCI規則4.2.048の第2文の条件を満たしている。

 

(5)以上のとおり、本件修理は、UCI規則4.2.048の定める条件を満たしており、同規則違反にはならない。

 

(6)仮に、被申立人の、UCI規則4.2.048の第1文及び第2文が、チーム外の第三者が提供した部品の提供を受けて"team mechanic"(チーム・メカニシャン)が修理を実行した場合についてまで禁止しているとの主張を正しい解釈だとしても、これはUCI規則4.2.048の文言上明らかとはいえない以上、このような解釈が競技団体によって事前に公表され、競技者はもちろん関係者に広く周知されていなければならない。なぜなら、このような周知徹底がなされていなければ、競技者をはじめとする関係者は知らされていない競技条件で制裁を科されることになり、公正に欠けるからである。しかしながら、被申立人は、本件で争点になっているUCI規則に関する被申立人の解釈を本大会以前に文書をもって公表したことがないことを自認している。明文に規定がなく、事前に公表もされず、周知もされていない条件で違反行為か否かを判断することは公平に反し、許されないというべきである。

 

(7)なお、本大会のプログラム(乙1号証)は、参加受付手続きの際、ゼッケンなどとともに参加する競技者に手渡され、申立人にも大会参加受付手続き時に手渡された。本大会のプログラム(乙1号証)6頁目には、「競技規則」として、「UCI国際マウンテンバイク競技規則、JCF競技規則に準じ、本大会特別規則により実施します。」との記載とともに、「クロスカントリー」の欄に「◆クロスカントリー競技では第3者の助力は禁止です。飲食料補給、アイウエアの交換はチーフ・コミッセール決定のフィードゾーンでのみ認められます。」との記載がある。被申立人は、「クロスカントリー」の欄の上記記載は、UCI規則と異なる規則を特別に定めたものではなく、UCI規則の内容を確認する趣旨で記載されたものであることを自認しており、この記載をもってUCI規則の特別規則を定めたものと解することはできない。

 

(8)申立人は、全日本選手権などの国内大会や国際レース等の現場では、現実にチーム外からの貸与物及び供与物並びに共有物を使用しており、特に工具は相当の範囲で共用して使用していると主張し、その証拠として2013年にカナダ・モンサンタンで開催されたUCIワールドカップにおけるマウンテンバイク・男子クロスカントリー・オリンピック(XCO)競技のレース映像(甲1号証)を提出した。一方、被申立人は、チーム外からの貸与物及び供与物並びに共有物が使用されており特に工具が相当の範囲で共用して使用されている事実を否定している。しかしながら、甲1号証の画像からは、レースにおける第3者による支援行為が行われているかどうかは必ずしも判然とせず、また、部品や工具の供与に関する画像が含まれているものではないから、本件修理が国際レース等の現場で許されているかどうかは、必ずしも明らかではない。

 

(9)以上検討したところにより、本件修理は、UCI規則に違反するものということはできない。

 

4 本件競技における違反行為に対するペナルティに関する規定について

 

(1)コミセール・パネルの決定がないことについて

本大会におけるUCI国際マウンテンバイク規則違反行為に対しては、JCF競技規則第57条2.の第2文により、コミセール・パネルでの多数決によりペナルティが宣言されるとされているところ、本件決定について、コミセール・パネルの決定がないことは当事者間に争いがない。

 

(2)チーフ・コミセールの専権について

被申立人は、チーフ・コミセールがペナルティを専決できる根拠として、JCF規則第59条(トラック・レース競技担当役員の任務)2.①、第60条(ロード・レース競技担当役員の任務)2.①及び第61条(タイムトライアル・ロード・レース競技担当役員の任務)2.①を挙げ、これらの規定には、チーフ・コミセールは、「規則に基づいたあらゆる決定をし、また、規則に規定していない事項についてもその解決を図るためのあらゆる権限を持つ。」と定められており、マウンテンバイクについてこれと同様の規定はないが、競技運営管理責任者としてのチーフ・コミセールの任務は各競技部門に共通するものであるから、これらの規定はマウンテンバイクについても準用ないし類推適用されると主張する。
しかしながら、マウンテンバイク競技は、トラック・レースでもロード・レースでもタイムトライアル・ロード・レースでもなく、これらの競技に関するJCF規則第59条2.①、第60条2.①及び第61条2.①をマウンテンバイク競技に準用する規定が存在しないことは文言上明らかであり、準用できるとの被申立人の解釈を正当と解する根拠はない。仮に、これらの規定が準用されたとしても、これらの規定はレース運用に関する決定権の規定であり、ペナルティに関する決定権を規定しているものではないから被申立人の主張は採用することができない。
さらに、被申立人がUCI規則上の根拠として主張するUCI規則1.2.130は、次のとおりである。
1.2.130 The Commissaires' Panel or, if necessary, each individual commissaire, shall take all decisions that may be required to ensure the proper conduct of the race. Those decisions shall be taken in keeping with the applicable provisions of The Regulations and, to the extent of the possible, after consulting the Race Administration. In the event of any non-compliance that cannot be rectified in good time, the start of the event may be delayed or cancelled or the event may be stopped. The Commissaires' Panel may withdraw if necessary, either at its own initiative or upon the instruction of the UCI.コミセール・パネルあるいは必要に応じて個々のコミセールはレースを正しく導くためにあらゆる決定を行うことができる。この決定は、UCI規則の適用できる条項に従い、可能な範囲でレース運営者と協議の上行われる。適切な時間内に修正できない規則違反があった場合、競技のスタートを遅らせるか、競技を停止してよい。必要であれば、コミセール・パネルは自身の主導あるいはUCIの訓令により撤退してよい。
 UCI規則1.2.130は、チーフ・コミセールのレース運用に関する決定権の規定であり、ペナルティに関する決定権を規定しているものではない。また、JCF規則第57条2.「ペナルティはコミセール・パネルでの多数決により宣言される。」との規定にもかかわらず、チーフ・コミセールがペナルティを宣言する専権が与えられているとは解されない。
そうである以上、違反行為にペナルティを科すにあたって、チーフ・コミセールが専決できるとの解釈は採り得ない。
なお、被申立人の主張にはないが、JCF規則第57条3.②は、各コミセールは「警告、制裁を与えることができる」ものと定めており、各コミセールが単独で制裁を与えることができるかのように解される規定が存する。しかしながら、この条文は、UCI規則1.2.129の翻訳であり、UCI規則の原文は、“to give warnings and to inflict an admonition"とされ、被申立人のUCI規則の該当部分の和訳でも「警告・訓戒を与えること」とされており、JCF規則第57条3.②に「制裁」とあるのは明らかな誤訳である。したがって、JCF規則第57条3.②によっても、各コミセールの権限として制裁を科すことができることの根拠とはならないことを付言しておく。

 

(3)以上によれば、本件決定は、コミセール・パネルでの多数決によってペナルティが宣言されたものではなく、しかも、チーフ・コミセールには被申立人が主張するような専権はないと言わざるを得ないから、規定に違反してなされたものといわざるを得ない。

 

5 ペナルティが降格処分であることについて

違反行為のあった場合のペナルティについて、UCI規則は、以下のとおり定めている。
12.1.015 National Federations may not introduce other penalties for infringements of the UCI Constitution and Regulations. 国内連盟は、UCI定款および規則の違反に対して、その他のペナルティを科してはならない。
12.1.016 Any authority that has to pronounce on an infringement of UCI Regulations shall impose the penalties provided, once the facts have been established. No penalty may be suspended save in such cases and on such conditions as provided for in the UCI Regulations themselves. UCI規則に対する違反を宣言しなければならない関係所管は、一旦その事実が確定されたら、規定のペナルティを科す。いかなるペナルティも、UCI規則それ自体の中で規定されているような場合および条件を除いて、留保されない。
12.1.022 The disqualification of a rider shall incur invalidation of results and his being eliminated from all classifications and losing all prizes, points and medals in the race in question. 失格選手は、競技結果を無効とし、問題の競技においてすべての順位から除外され、すべての賞典、ポイントおよびメダルを失う。
12.1.040 Without prejudice to article 12.1.039, race incidents which refer to the following table are sanctioned as outlined in the table. The table applies to all races. However, for national races, the respective national federations can set lower fines than those stipulated in the column “other races" of the table. 12.1.039の条項の侵害を除いて、下記の表に表される競技中の問題行為は、表による概略に従い制裁される。この表は全競技に適用する。しかしながら、国内競技については当該国内連盟が、表中の「その他の競技」の欄に規定するより低額の罰金を設定できる。
表の中の"Race incidents"(競技中の出来事(問題行為))、"8 Non-regulation assistance to a rider of another team"(他チームの競技者に規則外の援助を与える)"8.1 One-Day Race"(ワンデイ・レース)の内"Elite World Championships Olympic Games World Cup"(エリート世界選手権 オリンピック競技大会 ワールド・カップ)では、"Each rider concerned: Elimination + 200"(関連した各競技者に対し、失格+200スイスフランの罰金)"Other events"(その他の競技)では、"Each rider concerned: Elimination + 100"(関連した各競技者に対し、失格+100スイスフランの罰金)と定められている。
そして、表の中の"Mountain bike"(マウンテンバイク)の欄には、"51. Non-regulation assistance"(規則外の援助)に対するペナルティとして、“Elite World Championships Olympic Games World Cup"(エリート世界選手権 オリンピック競技大会 ワールド・カップ)についても、"Other events"(その他の競技)についても”Elimination”(除外)と定められている。
本件修理が、UCI規則違反とした場合の制裁は、上記両条項のいずれかであり、降格処分は、規則上、選択できるペナルティではない。
ところが、本件では、変更後の本件処分で降格を決定しているから、降格というペナルティを与えることが許されるのかという点で重大な疑義がある。本件において、申立人及び被申立人は、この点を争点としないことに合意しているので、当パネルはこの点について判断をしない。しかし、今後の被申立人の規則の適切な適用という点からは、規則の正確な解釈と運用をされるよう努力を求める。

 

6 付言

JCF規則もUCI規則も大部であり、しかも、競技者にとって理解するのが困難であり、明確とはいえない記載も多く、被申立人においては、競技者にとってより理解しやすい明確な規定に改訂するか、あるいはわかりやすい解説を公表するなどの措置をとることが望ましい。

 

7 総括

 以上によれば、本件決定は、取消しを免れない。

 なお、申立人は、本件決定の取消しのほか、申立人を優勝とすることをも求めているが、競技の大会における優勝者の決定は、大会運営にあたる競技団体が競技結果を踏まえて判定すべき事項であり、本件スポーツ仲裁パネルの権限を超える申立てであるため、この点に関する申立人の請求は却下する。

 

8 申立費用の負担について

 上記のとおり、申立人の請求は、申立人を優勝とする点を除いていずれも認められるべきものであるから、申立料金5万円は被申立人に負担させることが相当である。

 

第5 結論

以上のことから、主文のとおり判断する。

 

以上

2014年2月28日

スポーツ仲裁パネル

仲裁人 伊東  卓

仲裁人 望月 浩一郎

仲裁人 安冨  潔

仲裁地:東京

別紙1

手続の経過

1. 2013年8月8日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、仲裁申立書等を提出し、本件仲裁を申し立てた。
 同日、機構はスポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第14条第7項に基づき、本件申立てに関わる紛争をスポーツ仲裁パネルに付託する旨の合意を行うかどうか、被申立人に対し打診した。

2. 同月21日、被申立人は、機構に対し、「回答書」を提出し、本件仲裁事案を、規則に基づき、仲裁により紛争を解決することに合意した。
 同日、機構は、規則第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。

3. 同月26日、申立人は、機構に対し「仲裁人選定通知書」を提出した。
同日、機構は、申立人提出の「仲裁人選定通知書」に基づき、望月浩一郎に「仲裁人就任のお願い」を送付した。

4. 同月27日、望月浩一郎は仲裁人就任を承諾した。

5. 同年9月3日、被申立人は、機構に対し「仲裁人選定通知書」を提出した。
 同日、機構は、被申立人提出の「仲裁人選定通知書」に基づき、安冨潔に「仲裁人就任のお願い」を送付した。

6. 同月4日、安冨潔は仲裁人就任を承諾した。
 同日、機構は、望月仲裁人及び安冨仲裁人に対し「第三仲裁人選定のお願い」を送付した。

7. 同月6日、望月仲裁人及び安冨仲裁人は、機構に対し「第三仲裁人選定通知書」を提出した。

8. 同月9日、機構は、「第三仲裁人選定通知書」に基づき、伊東卓に「第三仲裁人就任のお願い」を送付した。
同日、伊東卓は仲裁人就任を承諾したため、伊東仲裁人を仲裁人長とする本件スポーツ仲裁パネルが構成された。

9. 同月11日、被申立人は、機構に対し、答弁書を提出した。

10. 同月13日、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人に対し、文書の提出方法、及び証拠の提出方法について「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。

11. 同月16日、申立人は、機構に対し「申立人主張書面(1)」を提出した。

12. 同月17日、被申立人は、機構に対し「公益財団法人日本自転車競技連盟競技規則集」を提出した。

13. 同月30日、申立人は、機構に対し「申立人主張書面(2)」「証拠説明書」及び映像資料である甲第1号証を提出した。
同日、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人主張書面(1)、(2)に対する被申立人による反論書面の提出について「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。

14. 同年10月11日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(2)」で求められた書面「被申立人主張書面(1)」を提出した。

15. 同月23日、申立人は、機構に対し「申立人主張書面(2)」を提出した。

16. 同月24日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対する求釈明について「スポーツ仲裁パネル決定(3)」を行った。

17. 同月30日、申立人は、機構に対し「申立人主張書面」を提出した。

18. 同年11月6日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(3)」に対する回答として「被申立人主張書面(2)」を提出した。

19. 同月12日、本件スポーツ仲裁パネルは、被申立人に対し適用規則、及びその解釈等に対する釈明について「スポーツ仲裁パネル決定(4)」を行った。

20. 同月25日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(4)」に対する回答として「被申立人主張書面(3)」を提出した。

21. 同年12月6日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対する求釈明として「スポーツ仲裁パネル決定(5)」を行った。

22. 同月12日、本件スポーツ仲裁パネルは両当事者に対し、審問開催日程案についての「スポーツ仲裁パネル決定(6)」を行った。

23. 同月17日、両当事者は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(5)」への回答書として、申立人は「パネル決定(5)への回答書面」、被申立人は「被申立人主張書面(4)」を提出した。同日、両当事者は、機構に対し、「スポーツ仲裁パネル決定(6)」への回答を行った。

24. 同月27日、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人に対し、代理人弁護士の存否、及び両当事者に対し審問日程の再調整のため「スポーツ仲裁パネル決定(7)」を行った。

25. 2014年1月6日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者に対し、本件審問の日時、場所の決定、及び審問出席者、証人尋問について「スポーツ仲裁パネル決定(8)」及び両当事者に対する求釈明について「スポーツ仲裁パネル決定(9)」を行った。

26. 同月20日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(9)」への回答として「被申立人主張書面(5)」を提出した。

27. 同月21日、申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(9)」への回答書面を提出した。

28. 同月22日、本件スポーツ仲裁パネルは、被申立人に対し、申立人が期限から遅れて提出した「パネル決定(9)に対する回答書面」の採否についての意見について「スポーツ仲裁パネル決定(10)」を行った。
 同日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(9)」に対する回答書面を提出した。

29. 同月23日、申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(8)」への回答書面を提出した。

30. 同月24日、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人に対し補佐人申請書の提出を、被申立人に対し当事者本人または代理人弁護士の審問出席を求める「スポーツ仲裁パネル決定(11)」を行った。

31. 同月28日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(10)」及び「スポーツ仲裁パネル決定(11)」に対する回答書面を提出した。

32. 同月29日、本件スポーツ仲裁パネルは、証拠採用決定、及び被申立人に対する補佐人申請書の提出についての「スポーツ仲裁パネル決定(12)」を行った。

33. 同月30日、申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(11)への回答書面」を提出した。
同日、被申立人は、機構に対し「スポーツ仲裁パネル決定(12)に対する回答」を提出した。

34. 同月31日、本件スポーツ仲裁パネルは、両当事者が行った補佐人申請を認める「スポーツ仲裁パネル決定(13)」を行った。

35. 同年2月7日、東京において審問が開催され、被申立人は新たに証拠を提出し、本人尋問が行われ、本件スポーツ仲裁パネルは審理の終結を決定した。

36. 同月10日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問時に申立人より提出された証拠と証拠説明書の提出について「スポーツ仲裁パネル決定(14)」を行った。

37. 同月18日、被申立人は「スポーツ仲裁パネル決定(14)」に対し、証拠説明書、乙第1号証及び乙第2号証を機構に提出した。

以上


以上は、仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内正人
※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。


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