仲裁判断

仲裁判断(2013年7月17日公開)
仲裁判断の骨子(2013年7月16日公開)


  

仲裁判断

仲 裁 判 断
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2013-004

 

 

申 立 人      :X1

上記法定代理人親権者父:X2

申立人代理人     :弁護士 田中裕司

             同  住本綾

被 申 立 人    :公益社団法人全日本テコンドー協会

被申立人代理人    :弁護士 楠井敏郎

 

主   文

本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

(1)2013年6月29日開催の総会において被申立人が行った、被申立人主催の競技への参加を無期限に停止するとの決定を、申立人との関係で取り消す。

(2)申立料金5万円は、被申立人の負担とする。

 

理   由

第1 当事者の求めた仲裁判断

1  申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

  被申立人の申立人に対する被申立人主催の競技への参加についての無期限停止の決定を取り消す。

2 被申立人は以下のとおりの仲裁判断を求めた。

  申立人の請求を棄却する。

 

第2 仲裁手続の経過

 別紙仲裁手続の経過のとおりである。

 

第3 事案の概要

 1 当事者

(1)申立人

 申立人は、熊本県内のA道場に所属するテコンドー競技の選手であり、熊本県テコンドー協会(以下「県協会」という。)の会員として登録されている者で、スポーツ仲裁規則第3条第2項に定める「競技者」である。

 なお、県協会は、熊本県におけるテコンドー競技を統轄する団体として、被申立人に加盟する任意団体であり、公益財団法人熊本県体育協会の加盟団体である。

 

(2)被申立人

 被申立人は、日本国内におけるテコンドー競技を統括し、これを代表する団体として、テコンドーに関する事業を行い、その普及及び振興を図ることを目的として設立された公益社団法人であり、公益財団法人日本オリンピック委員会の加盟団体であって、スポーツ仲裁規則第3条第1項に定める「競技団体」である。

 

 2 本件紛争の概要及びその経緯

(1)   2011年12月10日に開催された、被申立人の理事会及び社員総会において、個人登録制度の導入が決議された(乙3の1及び2)。個人登録制度とは、競技者に被申立人への個人登録を義務付け、個人登録が行われていない未登録の選手は、被申立人主催の競技会等に参加することができない、とする制度である。同理事会及び社員総会決議を受けて、被申立人は、被申立人の競技委員会規則である「(公社)全日本テコンドー協会競技委員会細則」(乙2、以下「細則」という。)第9条第1項に、「競技者は本協会に個人登録をしなければならず、未登録の選手については本協会主催の競技会及び認定競技会に参加することができない。」と明記した(以下、同項における「被申立人主催の競技会及び認定競技会」を「競技会等」という。)。なお、申立人は、平成24年度の個人登録を完了した(甲12及び13)。

 

(2)   被申立人は、2012年11月16日に開催された被申立人の理事会において、当時、県協会会長であったB氏に対し、被申立人賞罰規程第5条ないし第7条により、1年間の資格停止処分(以下「本件資格停止処分」という。)に付する決議を行った。被申立人は、本件資格停止処分の理由として、昇段申請は被申立人を通して国技院になされなければならないとする被申立人における理事会決議(2007年3月31日開催)に違反して「平成24年6月20日付国技院長による1段の昇段審査合格証書」に係る昇段申請について、被申立人を通さずに行ったことを挙げている(甲5)。

 なお、被申立人が作成した2013年5月15日付「前熊本県テコンドー協会会長兼正会員B氏除名及び段位証確認の件」と題する書面(甲6)には、B氏の本件資格停止処分の理由として、上記理由のほか、県協会が世界テコンドー連盟(WTF)以外の団体に加盟したことが挙げられているものの、かかる事由は、除名処分を目的として被申立人がB氏に対して弁明の機会を付与する旨を通知した書面(乙5)及び被申立人のB氏に対する除名処分の告知書面(甲5)には、本件資格停止処分の理由として挙げられていない。

 

(3)   被申立人は、2013年3月24日に開催された被申立人社員総会において、B氏に対し、定款第10条により、除名処分(以下「本件除名処分」という。)に付する決議を行った。被申立人は、本件資格停止処分の理由として以下の事由を挙げている(甲5及び6)。

①   昇段申請は被申立人を通して国技院に行う旨の被申立人における2007年3月31日開催の理事会決議後に、B氏が多数回にわたり、被申立人を通さずに国技院に昇段申請を行っていたことが、本件資格停止処分後に判明したこと

②   被申立人賞罰委員長が、B氏に対し、2012年12月27日及び2013年1月23日、上記国技院への無断申請に係る名簿の提出を求めたものの、B氏が回答しなかったこと

③   B氏が、2013年2月8日付けで、国技院に対し、本件資格停止処分の事実につき通報をしたところ、国技院より被申立人に対し、事実関係の問い合わせがあり、被申立人はその対応に追われたこと

④   B氏が、本件資格停止処分期間中に、インターネット上のコラム「体罰問題について考えるNO.2」において、被申立人の批判を行ったこと

  また、同総会においては、「平成24年度登録した会員は3年間登録証が有効。退会時は退会用紙に登録証を添付して事務局に提出する。紛失、変更等の再発行料500円。個人の申請書は毎年提出してもらう。」といった説明が被申立人の総務委員長よりなされている(乙4)(以下「総務委員長報告」という。)。

 

(4)   なお、被申立人は、B氏に対し、本件除名処分前に、2013年3月13日付「弁明の機会について」と題する書面を送付し、同月24日午後1時から開催される被申立人社員総会にて弁明の機会を与える旨、通知した(乙5)。B氏は、ファクシミリで弁明書を送付したものの、同社員総会には欠席した(甲6)。

 

(5)   被申立人は、2013年5月15日付「前熊本県テコンドー協会会長兼正会員B氏除名及び段位証確認の件」と題する書面を、「県協会個人登録会員」、「県協会理事・役員」及び「県協会事務局」を名宛人として送付し、被申立人のB氏に対する本件除名処分の事実を報告した(甲6)。

 

(6)   県協会は、被申立人に対し、2013年5月31日、上記「前熊本県テコンドー協会会長兼正会員B氏除名及び段位証確認の件」と題する書面に対し、その内容について釈明を求める通知書を代理人弁護士田中裕司名義で発送し、被申立人は、同通知書を同年6月3日に受領した(甲7)。

 

(7)   被申立人は、県協会に対し、2013年5月31日付「東アジアテコンドー連盟に関する件並びに正会員申込みについて」と題する書面を送付した。同書面において、被申立人は、県協会に対し、本件除名処分により、県協会の会長及び正会員を同年6月7日までに選出するよう求めるとともに、県協会が東アジアテコンドー連盟に加盟したとの報道があるため事実を確認するよう求めた(甲8)。

 

(8)   2013年6月初旬頃、県協会の会員であったC氏が、県協会を脱会し、新たに「Kumamoto Taekwondo Club(仮名)」を立ち上げ、被申立人に対し、正会員の理事会承認を求めた(乙6)。

 

(9)   被申立人は、2013年6月14日付「会議出席の件」と題する書面を、県協会個人登録支部長を名宛人として送付し、「熊本県テコンドー協会のインターネットに掲載されている支部長が被申立人の個人登録名簿に報告されていないこと及び全日本ジュニア等今後の大会参加への対応」についての話合いを目的として、同月20日19時から熊本県内にて会議を行う旨通知した(甲10)。

 

(10)2013年6月21日、県協会のX2事務局長より、申立人を含む選手60名分の個人登録更新書及び「JOCジュニアオリンピックカップ・第6回全日本ジュニアテコンドー選手権大会」の出場申込書が提出された。同月24日には、C氏より、「Kumamoto Taekwondo Club」の選手50名分の同各書類(個人登録は新規のものである。)が提出された。

 しかし、被申立人は、いずれの提出書面も受理しないこととした(乙6)。

 

(11) 県協会は、被申立人に対し、2013年6月27日付「熊本県協会正会員のお知らせ」と題する書面を送付し、県協会の正会員としてD氏を選出した旨通知するとともに、東アジアテコンドー連盟に加盟した事実はない旨報告した(甲9)。

 

(12)被申立人は、2013年6月29日、社員総会(以下「本件総会」という。)を開催し、熊本県テコンドー協会が正常に機能していないことから、熊本県テコンドー協会所属選手の今後の試合参加を無期限停止とする旨決議した(以下「本件決定」という。甲1)。

 なお、本件総会の議事録は、本仲裁手続における審問期日時点においては作成されておらず、被申立人より本件総会の議事録が書証提出されることはなかった。

 また、審問期日において、被申立人代理人より、本件決定に関して理事会が開催されたかどうかは明らかではないとの陳述がなされた。

 

(13)被申立人は、2013年6月29日付「通知書」と題する書面を、弁護士田中裕司を名宛人として送付した。

 同書面には、2013年6月29日に開催された被申立人社員総会の決議により、「熊本県テコンドー協会の正常な機能がなされていない事が決議され、今後の試合参加は無期限停止と決議され」た旨及び同年7月8日13時に被申立人事務局にて、今後の熊本県テコンドー協会の正常化を図る目的で話合いを行うため出席を求める旨が記載されていた(甲1)。なお、被申立人によれば、「無期限停止」とは「期限を定めない」停止との趣旨であるとのことである(乙6)。

 

(14)申立人は、被申立人に対し、被申立人運営規則第6条「本協会のする決定に対する不服申し立ては、日本スポーツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従ってなされる仲裁によって決定されるものとする。」の規定に基づき、被申立人の申立人に対する本件決定の取消しを求め、2013年7月5日、スポーツ仲裁の申立てをし、同日、同申立ては受理された。

 

第4 判断の理由

 

 1 判断の基準

 

  本件は、テコンドーの国内競技団体である被申立人が本件総会において行った、被申立人主催の競技への申立人の参加を無期限に停止するとの決定の取り消しが求められている事案である。

  このように国内競技団体が行った決定の取消しが求められた事案について、当機構における過去の仲裁判断では、「日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならない。仲裁機関としては、①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、または④国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができると解すべきである」との判断基準が示されている(JSAA-AP-2003-001(ウェイトリフティング)、JSAA-AP-2003-003(身体障害者水泳)、JSAA-AP-2004-001(馬術)、JSAA-AP-2009-001(軟式野球)、JSAA-AP-2009-002(綱引)、JSAA-AP-2011-001(馬術)、JSAA-AP-2011-002(アーチェリー)、JSAA-AP-2011-003(ボート)、JSAA-AP-2013-003(水球))。

  本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。

 

 2 本件決定

 

  被申立人は、本件総会において、県協会所属の選手の試合参加は停止するとの本件決定を行った。被申立人は、本件決定を行った理由として、①県協会が正会員不在のまま大会を開催していること、②県協会の脱会者が新たな団体を立ち上げて正会員として理事会の承認を求めていること、③県協会が世界テコンドー連盟以外の団体に加盟する動きを見せていること、④県協会が新たに正会員として理事会の承認を求めた者について理事会の承認が得られていないこと、⑤県協会が運営正常化や競技参加のための話し合いを拒否するとともに、個人登録更新書とあわせて脱会届を提出していないこと、を挙げている。そして、被申立人は、(ア)定款第4条ないし第7条の趣旨に照らせば(定款第4条ないし第7条では、被申立人の目的や事業について規定するとともに、都道府県におけるテコンドーを統括する団体の代表者として理事会の承認する者が正会員となることが規定されている。)、ある都道府県の正会員が欠け協会が正常に機能していない状態では当該都道府県の競技者は被申立人の主催する競技会に参加できないとの決定も許されること、また、(イ)平成24年度から導入された個人登録制度のもとでは個人登録がなされない場合には被申立人が主催する競技会に参加できないとされていること(細則第9条第1項)によって、本件決定は根拠づけられると主張する。

  そこで以下では、まず、個人登録制度との関係について検討し、そのうえで、県協会を代表する正会員が存在しない等の事情との関係について検討する。

  なお、本件決定は社員総会決議という形式でなされたものである。被申立人によれば、社員総会は本件決定を行う権限を有する機関であるとのことであるが、被申立人の定款には、社員総会で決議すべき事項として、被申立人主催の競技会の運営に関する事項や法人の業務執行に関する事項は定められていない(定款第13条)(乙1)。また、本件決定に関して理事会による審議や決定がなされたかどうかは定かではない。したがって、この点において、被申立人が本来必要な手続きを経ていたといえるかどうかは明らかではない。

 

 3 個人登録制度との関係について

 

  本件のような競技者の競技会への参加の可否といった問題に関する決定は、原則として、競技団体が定めた規則に従ってなされる必要があるというべきである。なぜならば、スポーツを行う競技者にとって、当該スポーツの競技団体が主催する競技会に参加できるかどうかは当該スポーツを行う意義に直結し得る極めて重要な事項であり、そうした事項が、予め定められた規則によることなく、競技団体の機関によって恣意的に決定されることは、競技者に予測できない多大な不利益をもたらすおそれがあるからである。

  被申立人は平成24年度より、個人登録制度を導入した。この個人登録制度について、細則第9条第1項では、「競技者は本協会に個人登録をしなければならず、未登録の選手については本協会主催の競技会及認定競技会に参加することができない。」と定めている(乙2)。加えて、細則第9条第2項は、「本協会個人登録は所属道場の現住所管轄都道府県でなければならない。」と規定する。

  以上のような細則第9条の規定に照らした場合には、申立人が競技会等への参加に必要な登録を行っていなかった場合には、申立人は競技会等に参加することができないこととなる。被申立人が本件決定の理由として挙げる第4 判断の理由 2 本件決定の上記⑤は、この点に関するものである。しかし、以下の理由から、本件の事情のもとでは、被申立人は、申立人による登録がなされていないことを理由として、競技会等への申立人の参加を拒むことは許されないというべきである。

  第一に、申立人は平成24年度に登録を行っており、また、総務委員長報告によれば平成24年度に登録した会員は3年間登録証が有効であるとされている。そうであれば、平成24年度に登録した申立人は、平成25年度においても有効な登録証を保持していると解される。この点に関し、被申立人は、総務委員長報告を根拠として、競技会等に参加するためには、個人登録を毎年更新することが必要であると主張する(細則にはこの点に関する定めはない。)。しかし、総務委員長報告における「個人の申請書は毎年提出してもらう」との記載をもって、被申立人が主張するような、競技会等への参加の要件として毎年の更新が必要であるとの決定がなされたといえるかどうかは疑問である。

  第二に、仮に毎年更新が必要であるとしても、2013年6月21日には、県協会のX2事務局長より、申立人を含む60名分の選手の個人登録更新書(以下「本件更新書」という。)が被申立人に提出されたのに対し、被申立人はこの本件更新書を受理しなかった(答弁書5頁、乙6)。被申立人は、本件更新書を受理しなかった理由として、「平成24年には、熊本県テコンドー協会の新規登録者は188名であったから、128名分の脱会届がともに提出されなければ受理できないものであった」とし、そのことは総務委員長報告に示されているとする(答弁書5頁、乙6)。すなわち、被申立人の主張によれば、被申立人の個人登録制度のもとでは、前年度の登録者のうち新年度に更新届を提出しない者全員について退会届が提出されない限り、新年度における登録の更新を希望する者がいたとしても更新届が受理されない、ということになる。しかし、総務委員長報告を見る限り、退会届がともに提出されなければ更新届が受理されないとは記載されていないし、そうした趣旨を伺わせる記載もない。また、仮に被申立人の個人登録制度がそのようなものであったとした場合には、退会者の協力が得られない限りは登録の更新が不可能ということになってしまうが(しかも、総務委員長報告では退会届には登録証を添付することとなっている。)、そうした制度は更新を希望する競技者の地位を不安定にするものであって、著しく合理性を欠くものと言わざるを得ない。被申立人は、退会届が併せて提出されない状態での本件更新書の提出を「個人登録制度の趣旨に反する」と主張するが、誰が登録された競技者であるかを特定するためには、さしあたり更新届が提出された者を登録競技者として扱えば足り、常に更新届と退会届がともに提出されるような制度でなければ個人登録制度の趣旨が達成できないとの説明は説得力に欠ける。

  以上からすると、被申立人が、第9条第1項に基づく登録がなされていないことを理由として、申立人は被申立人主催の競技会に参加できないとの決定を行うことは、著しく合理性を欠くものであるというべきである。

 

 4 正会員の欠員等について

 

  被申立人は、県協会を代表する正会員が欠員となっており、県協会が正常に機能していないことから、本件決定を行うことが許され、また、本件決定は著しく合理性を欠くものとはいえない、と主張する(被申立人が本件決定の理由として挙げる第4 判断の理由 2 本件決定の①、②及び④はこの点に関係する。)。

  確かに、定款第6条第1項(1)によれば、正会員は「都道府県におけるテコンドーを統括する団体を代表する者、又はそれに準ずる者」とされている。しかし、ある都道府県協会を代表する正会員が欠員であることを理由として、被申立人の主催する競技会等への当該都道府県協会に所属する競技者の参加を拒むことは、原則として許されないというべきである。その理由は、以下のとおりである。

  第一に、被申立人の定款や細則には、競技者が所属する都道府県の正会員が欠員である場合には当該競技者は競技会に参加できない旨の規定は存在しない。

  第二に、正会員が存在しないからといって競技者の競技会等への参加に実務的な支障が存在するとは考えにくい。競技会等の運営のために都道府県協会による何らかの関与が必要であるとしても、当該都道府県協会の事務局に処理を委ねる等の方策によって足りると考えられるのであって、正会員が欠員の場合に当該都道府県所属の競技者の競技会等への参加を禁止する合理的な必要性はない。なお、本件における県協会について、そうした処理ができないほど正常な機能が失われているといった事情は見当たらない。

  第三に、本件決定のような処分は、自らに何ら責任のない事情を理由に、競技者の競技会等への参加の機会を奪うものであって、競技者に合理的とはいえない不利益を課すものである(競技者としては、他都道府県の道場に所属を変更して、新たに個人登録を申請する以外にはない。)。

  被申立人は、現在の状況は単に正会員が欠員となっているという状況にとどまらず、熊本県において、県協会以外にも選手の登録を申請する団体が併存し、また、県協会と被申立人との間に尖鋭な対立が生じており、話し合いもままならないという異常な状況であって、このような特殊な状況のもとでは、例外的な対応として、県協会に所属する競技者の参加を停止するという決定も許されるべきである、と主張する。しかし、仮に被申立人と県協会との間の関係が異常な事態にあるといっても、被申立人と県協会は、それぞれ自らの責任でかかる異常な事態の解決のための方策を模索すべきであり、当該紛争とは直接には何ら関係のない競技者の参加停止という結果が正当化されるべきではない。被申立人や県協会は、極力、競技者に自己とは無関係な理由による、合理的な理由を欠いた不利益を与えないような形で競技会を運営する義務を負うというべきであって、本件決定はそうした義務に照らしても著しく合理性を欠くものといわざるを得ない。

また、本件決定が取り消されることによって、競技者の組合せの変更が必要になる等競技会の運営に際して被申立人が不利益を被ることがあるとしても、本件決定が維持されたことにより競技者が目指していた競技会に出場できなくなるという不利益は、本件決定が取り消されたことにより被申立人が被る不利益に比して極めて大きいものである。

  なお、被申立人が本件決定の理由として挙げる第4 判断の理由 2 本件決定の上記③については、そもそも、本件仲裁手続における証拠記録から、県協会が世界テコンドー連盟以外の団体に加盟する動きを見せているという事実を認定できないうえ、仮に、そのような事実があったとしても、世界テコンドー連盟以外の団体に加盟する動きを見せたという事実をもって、本件決定を正当化する理由には到底ならない。

 

 5 まとめ

 

  以上検討したように、本件決定は、合理的な理由もなく競技者に多大な不利益をもたらすものであって、著しく不合理なものである。したがって、冒頭で述べた判断基準に照らし、申立人との関係で、本件決定は取り消されるべきものである。

 

 6 手続費用の負担

 

  被申立人による本件決定がなければ、申立人は本仲裁を申立てる必要はなかった。そして、本件決定は取り消されるべきものである。こうした事情に鑑み、申立料金5万円は被申立人の負担とするのが相当である。

 

第5 結論

  以上に述べたことから、本件スポーツ仲裁パネルは主文のとおり判断する。

  なお、付言すれば、本仲裁判断は申立人との関係で本件決定を取り消すものであるが、本仲裁判断における判断の理由で述べたことは、同様の事情のもとにある他の競技者についても当てはまる。そうした競技者が本件決定によって不利益を被ることや、仮にそうした競技者によって同様の申立てがなされた場合に生じる無用の混乱を回避するためにも、本件仲裁の当事者ではないそうした競技者についても、申立人に対するのと同様の対応がなされることを強く期待する。

                      2013年7月15日

                          スポーツ仲裁パネル

                            仲裁人 森下哲朗

                            仲裁人 小川昌宏

                            仲裁人 高松政裕

                             仲裁地:東京都


(別紙)

仲裁手続の経過

1.       2013年7月5日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、申立書、委任状、書証(甲第1号証~第11号証)、社団法人全日本テコンドー協会運営規則第6条写しを提出し、本件仲裁を申立てた。

 同日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。また、機構は、事態の緊急性に鑑み極めて迅速に紛争を解決する必要があると判断し、規則第50条第1項に基づき、本件を緊急仲裁手続によること、及び仲裁パネルを3名とすることも併せて決定した。

2.      同月8日、機構は、両当事者に対し、「手続の進行に関する通知」を送付し、追って、「手続の進行に関する通知(追加)」を送付した。

 同日、申立人は、機構に対して、書面にて「手続の進行に関する通知(追加)」に対する回答を行った。

3.      翌9日、被申立人は、機構に対して、口頭にて「手続の進行に関する通知(追加)」に対する回答を行った。

 同日、機構は、森下哲朗を仲裁人長に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。

4.       翌10日、森下哲朗は、仲裁人就任を承諾し、仲裁人長となった。

 同日、申立人は、機構に対し、手続費用支援要請書を提出した。

 同日、機構は、小川昌宏及び高松政裕を仲裁人に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。

 同日、小川昌宏及び高松政裕は、仲裁人就任を承諾し、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。

5.       翌11日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問期日の決定、審問出席者の連絡、証人審問申請書の提出、答弁書の提出に関し「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。

 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、仲裁申立書に添付された書証の証拠説明書の提出に関し「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。

6.        翌12日、申立人は、機構に対し、証人尋問申請書、証拠説明書を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、答弁書、証拠説明書、委任状、書証(乙第1号証~第6号証)を提出した。

 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、書証の提出に関し「スポーツ仲裁パネル決定(3)」を行った。

7.        同月15日、東京において審問が開催された。冒頭、申立人によって、証拠説明書、書証(甲第12号証~第16号証の2)が提出され、その後証人尋問が行われた。

 本件スポーツ仲裁パネルは、審問終了後、審理の終結を決定した。

 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、規則第50条第5項に従い、仲裁判断を両当事者に通知した。

以上

以上は、仲裁判断の謄本である。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構

代表理事(機構長) 道垣内 正人

※申立人等、個人の氏名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。






仲裁判断の骨子

仲 裁 判 断 の 骨 子
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2013-004

 

 

申立人         X

申立人代理人  弁護士 田中裕司

        弁護士 住本綾

被申立人    公益社団法人全日本テコンドー協会(Y)

被申立人代理人 弁護士 楠井敏郎

主   文

本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

 

(1)2013年6月29日開催の総会においてYが行った、Y主催の競技への参加を無期限に停止するとの決定を、Xとの関係で取り消す。

(2)申立料金5万円は、Yの負担とする。

理由の骨子

 本件は、テコンドーの国内競技団体であるYが2013年6月29日の総会において行った、Y主催の競技へのXの参加を無期限に停止するとの決定(「本件決定」)の取り消しが求められている事案である。

 このように国内競技団体が行った決定の取消しが求められた事案について、当機構における過去の仲裁判断では、「日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならない。仲裁機関としては、①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、または④国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができると解すべきである」との判断基準が示されている。本件スポーツ仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。

 Yは、熊本県テコンドー協会(「県協会」)の正会員が不在で県協会が正常に機能していないこと、Yの個人登録制度のもとでの個人登録がなされていないこと等を挙げて、本件決定は不当なものとはいえないと主張する。

 しかし、Xの登録更新の申請がなされた等の事実が認められる本件事情のもとでは、YがXによる個人登録がなされていないことを理由として、自己が主催する競技会へのXの参加を拒むことは許されない。また、県協会の正会員が不在である等の事実があるとしても、それらを理由に、Xのような競技者の参加を認めないとした本件決定は、著しく合理性を欠くものと言わざるを得ない。

 したがって、本件決定は著しく合理性を欠くものであり、取り消されるべきものである。

 以上に述べたことから、本件スポーツ仲裁パネルは主文の通り判断する。

                      2013年7月15日

                         スポーツ仲裁パネル

                         仲裁人 森下哲朗

                         仲裁人 小川昌宏

                         仲裁人 高松政裕

                          仲裁地:東京都


以上は、仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内正人
※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。


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