仲裁判断

仲裁判断(2013年6月4日公開)
仲裁判断の骨子(2013年5月1日公開)

仲 裁 判 断
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2013-003

申 立 人  :X
申立人代理人 :弁護士 白井久明
同  高松政裕
被 申 立 人:公益財団法人日本水泳連盟
被申立人代理人:弁護士 藤井幹雄
同  望月浩一郎
同  大橋卓生
同  松本泰介

主 文

本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。
1. 申立人の請求(1)および(2)を棄却する。
2. 申立人の請求(3)および(4)を却下する。
3. 申立料金5万円は、申立人の負担とする。

理 由

第1 当事者の求めた仲裁判断

1.申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

(1) 被申立人が2013年4月2日に決定し、同月3日に公表した、2013年5月9日から同月14日まで、ニュージーランド・オークランドで開催される水球競技の「水球ワールドリーグ2013アジアオセアニア(大洋州)ラウンド」(以下「本件競技会」という。)における男子日本代表選手に申立人を選出しないとの決定(以下「本件決定」という。)を取消す。

(2) 被申立人は、申立人を本件競技会における男子日本代表選手に選出せよ。

(3) 被申立人は、本件競技会における男子日本代表選手に決定した各人の選考理由及びその根拠について、客観的データを示して公開せよ。

(4) 被申立人は、国際競技大会に派遣する日本代表選手選考のための明確な選考基準を定立せよ。

(5) 仲裁費用は被申立人の負担とする。

2.被申立人は、以下のとおり仲裁判断を求めた。

(1) 申立人の請求(1)を棄却する。

(2) 申立人の請求(2)ないし(4)をいずれも却下する。

(3) 仲裁費用は申立人の負担とする。

 

第2 仲裁手続の経過

別紙に記載のとおり。

 

第3 事案の概要

本件は、2012年度日本代表候補に選出されていた申立人が本件競技会の日本代表選手に選出されなかったことに関し、被申立人水球委員会(以下「水球委員会」という。)が公表した本件競技会の代表選手選考要項に規定された代表監督の強化方針が公表されず、また公表された選考合宿への申立人の参加要求を拒絶してなされた本件決定は、手続上の公正さを欠き、著しく合理性を欠くものであるとして、本件決定の取消を求め、更に申立人を本件競技会の日本代表選手として選出する等の決定を求めたものである。

 

第4 判断の前提となる事実

両当事者間に争いのない事実、及び証拠により認められる事実は、以下のとおりである。

1.当事者

(1) 申立人

(i) 申立人は、現在32歳の水球競技の選手である。申立人は、1998年高校在学中に史上最年少で水球日本代表選手となった。その後、申立人は、2012年のロンドンオリンピックアジア予選まで日本代表選手であり2010年には日本代表チームの主将を務めた。申立人は、2010年にAクラブの選手兼監督に就任し、同クラブは、2012年の日本選手権で優勝した。

(ii) 申立人は、スポーツ仲裁規則第3条第2項に定める「競技者」である。

(2) 被申立人

(i) 被申立人は、日本国内の水泳競技の普及・発展を図る目的の公益財団法人である。被申立人には、競泳委員会、飛込委員会、水球委員会、シンクロ委員会という競技別の委員会、その他各種委員会がある。被申立人は、定款第43条に基づいて選手選考委員会を設置し、選手選考委員会規程に基づいて国際競技大会等の代表選手を審議決定する。

(ii) 被申立人は、スポーツ仲裁規則第3条第1項に定める「競技団体」である。

(3) 仲裁合意

被申立人の定款第43条に基づき設置された選手選考委員会に関する選手選考委員会規定(甲1)第8条に「本委員会の選手選考決定に対する不服申し立ては、日本スポーツ仲裁機構『スポーツ仲裁規則』に従ってなされる仲裁により解決されるものとする。」との規定があるので両当事者間に仲裁合意があると認められる。

 

2.事実の経緯

(1) 2012年2月、被申立人は、2012年度事業計画を発表し、水球について、「2016年オリンピック予選時のメンバー構成を考慮し、若手育成を強化のポイントとして強化策を進める」旨の記載がある(乙5の2)。

(2) 2012年2月10日、水球委員会は、男子チームの代表監督にB監督に代わりC監督を選任した(乙6の2)。

(3) 2012年度代表選手の選考については、2006年から2011年まで行われていた選手の体力測定、能力測定の結果を点数化し、選考試合における各選手のプレーについて7項目を3名の審査員により点数化し、総合得点の上位者から選考した方式に代え、2012年4月から、選考会に代表候補選手を集めて試合を行い、監督・強化担当者の総合判断で選考する方式とした。この方針に基づいて2012年度代表選手[男女]選考会要項が公表された(乙7、乙12)。

(4) 2012年9月21日水球委員会において、2013年度の代表選手選考について、2012年の選考方式を変更し、指定された主要競技会でのパフォーマンスを見て代表選手を選考することとし、主要競技会でカバーできないところを選考会で補っていく方式にすることを決定した(乙6の8、乙12)。

(5) 被申立人は、2012年11月21日付で、2012年度水球男子日本代表候補選手27名を公表し、申立人も選考されていた(甲6)。

(6) 水球についての2012年11月30日付オリンピック特別対策強化戦略プラン(乙4の2)の「競技水準要因への対応動静」の中に、「2016年のオリンピック時に中心となる選手は現在20~26歳である。特にこの年代を中心に強化、投資を集中し2016年のリオデジャネイロに標準を絞り強化育成を図る事が重要である。・・・日本チームにおいても伸びしろの多いジュニア世代で有望な選手は積極的に代表に選出しその活躍を望みたい」との記載があり、2013年2月5日付強化戦略プラン(乙4の1)には、総括として、主要国内競技会を選手選考の場として位置づけた競技会強化の推進との記載がある。平成24年12月22日開催の申立人も出席した強化コーチ会議において前記強化戦略プランに基づいた説明が水球委員会D委員長からなされ、代表選手は原則として競技会における実戦でのパフォーマンスを見て選考されるとの説明がなされた(乙9の2、乙12)。

(7) 被申立人は、2013年1月10日被申立人のホームページ上に本件競技会の代表選手選考のため「2013年度水球男女日本代表選手選考要項(改訂)」(以下「本件選考要項」という。)(甲7)を以下のとおり公表した。

・2013年度日本代表水泳選手団編成方針

選手は、日本水泳界の期待に応え得る競技力を持つ者のなかから選考し、入賞及びメダル獲得を目指すチーム編成とする。選手は、代表監督による「日本代表が目指す強化方針」を忠実に実行しなくてはならない。

・2013年度選手選考対象国際・国内試合

2012年ワールドリーグ・アジア大洋州ラウンド

2012年アジア選手権大会

2012年関東学生リーグ戦

2012年日本学生選手権

2012年日本選手権

・2013年度選手選考対象合宿

2012年度日中合同合宿(2013年3月で調整中)

2012年度内国内強化練習

・連盟選手選考委員会

期日:2013年4月2日

「2013年度スクワッド代表候補選手」より水球委員会がワールドリーグ・アジア大洋州ラウンド代表男女各15名を推薦し、日本水泳連盟選手選考委員会における審議を経て決定する。

(8) 2013年2月14日、Aクラブ理事会の申入れに応じ、D委員長と水球委員会E総務部長が柏崎において説明会を開催し、D委員長から、代表選手は競技会の中で実戦でのパフォーマンスを見て選考していく方針であり日本選手権が最も重要であることおよび選考対象合宿は日本代表候補の中で日頃見ていない選手を見ていくものであるとの説明がなされた。申立人は、2013年度の選考対象試合である2012年の日本代表選手権では怪我のためプレーを見てもらう機会が乏しかったと述べた(甲9、乙12)。

(9) 2013年2月22日、申立人は水球委員会F委員を通じ費用の自己負担による合宿参加の申入れをしたが、D委員長から若手中心に組んでいるとの理由で断られた(甲31、32)。

(10) D委員長は、C監督に対し、2013年2月15日ころ東日本リーグにおける申立人のプレーを見て、日本選手権における申立人のパフォーマンスに対する怪我の影響を確認するように指示し、C監督は、同年3月2日の試合を観戦し、3日の試合はビデオで見た(乙12、乙13)。

(11) 2013年3月3日、申立人からの合宿参加の要望に対しE部長は、合宿は若手を対象とした強化のためのもので代表選手選考とは無関係であるとの回答をした(甲17、甲31、乙14)。

(12) 2013年3月中に予定していた日中合同合宿は、中国代表チームが日本に来られなくなったため中止となった(乙6の13、乙12)。

(13) 2013年3月24日、水球委員会強化部会が開催されC監督から若手中心の14名の男子代表選手(案)の説明及び出席者との質疑応答がなされ14名の候補選手が決定され(乙8の2)、同月30日の水球委員会で上記強化部会における経緯が報告された(乙6の15)。

(14) 2013年4月2日、被申立人の選手選考委員会において、水球委員会の提案した代表選手案について審議がなされ本件競技会の代表選手14名が決定されたが、申立人は選出されなかった(甲4、乙12、乙13)。

(15) 申立人は、本件決定に対し不服であったために、選考決定の取消し、変更等を求めて日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申立てたものである。

 

第5 本件スポーツ仲裁パネルの判断

1.判断の基準について

競技団体の決定の効力が争われたスポーツ仲裁における仲裁判断基準として、日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断の先例によれば、「国内競技団体(被申立人もその一つである)については、その運営について一定の自律性が認められ、その限度において仲裁パネルは国内競技団体の決定を尊重しなければならない。しかし、仲裁パネルは、①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、②規則には違反していないが決定が著しく合理性を欠く場合、③決定に至る手続に瑕疵がある場合、または④規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合には決定を取消すことができると解すべきである。」と判断されており、本仲裁パネルもこの基準が妥当であると考える。よって、本件においても、上記基準に基づき判断する。

 

2.申立てに対する判断

(1) 本件の申立の趣旨は、本件決定が被申立人の設定した本件選考要項に違反したものであること、仮にそうでないとしても、本件決定に至る手続に疵があること、あるいは本件決定が著しく合理性を欠くことを理由として本件決定の取消しを求めると共に、申立人を本件競技会の日本代表選手として選出すること等を求めたものと解することができる。

(2) そこで、最初に本件決定が本件選考要項に違反するかどうかについて検討する。

(i) 本件選考要項には、2013年度選手選考対象国際・国内試合として5試合が記載され、申立人は、2012年日本選手権に出場していた。申立人は、この対象試合の要件については何等争ってはいないが、出場した試合前の負傷により試合で十分なパフォーマンスができなかったと自覚していたため、以下に述べる選考対象合宿を重視した経緯がある。なお、負傷の事実を後から知ったD委員長はC監督に指示して東日本リーグにおける申立人のプレーを見て日本選手権での申立人のパフォーマンスと対比するように指示し、C監督は申立人の出場した2試合を見た。

(ii) 次に、本件選考要項には、2013年度選手選考対象合宿として2012年度日中合同合宿(以下「日中合同合宿」という。)と2012年度内国内強化練習(以下「国内強化練習」という)の記載がある。このうち日中合同合宿は中止となった。申立人は、前記のとおり負傷のため選考対象試合とされた日本選手権において十分なパフォーマンスを発揮できなかったと考え、再三強化練習合宿への参加を申し入れ、合宿費用の自己負担まで申し入れたが、拒絶され参加できなかったので、選考対象合宿への参加を拒絶してなされた本件決定は違法であると主張する。そこで選考対象合宿は代表選手選考につきどのような趣旨のものであったのかについて検討する。

本件選考要項の記載は、一見すると、日中合同合宿と国内強化練習に参加することが代表選手として選考されるための条件のように見える。しかし、2013年度の代表選手選考については、2012年9月21日の水球委員会議事録、同年12月22日の強化コーチ会議議事録、2013年2月5日付オリンピック特別対策強化戦略プラン、同年2月14日の柏崎における説明会経緯書等の中に、主要国内競技会における選手のパフォーマンスを見て代表選手を選考する趣旨の記載や記述はあるが、選考対象合宿についての記載は見当たらない。また、2013年2月14日の柏崎における説明会において、D委員長から選考対象合宿は代表候補の中で日頃見ていない選手を見ていくものであるとの説明がなされ、同年2月22日の申立人の合宿参加の申入れに対しD委員長より若手中心に組んでいるとの説明、同年3月3日の申立人の合宿参加要望に対しE部長より合宿は若手を対象とした強化目的のためのものであり代表選手選考とは無関係であるとの説明がなされた。これらの説明によれば、選手選考対象合宿のうち国内強化練習は、代表選手になる可能性のある若手選手中心に招集されるものと考えるべきであり、強化練習への参加が代表選手選考の必須要件(即ち、参加しなければ代表選手として選出されない。)と解すべき事情は他に存在しない。なお、申立人は、C監督が参加者に対し代表選手選考にとって強化練習は重要であると述べたと主張するが、仮にこのような発言がなされたとしても、参加した若手選手にとって重要であるとの趣旨と考えられ、これによって、強化練習への参加が代表選考の要件となるものと解すべきではない。

従って、本件選考要項の記載方法は誤解を生む可能性があったことは否定できないが、以上の事実によれば、強化練習合宿への申立人の参加を拒絶したうえで申立人を代表選手として選出しなかった本件決定が被申立人の制定した規則に違反したものということはできず、この点についての申立人の主張は理由がない。

(3) 次に、申立人は、選手選考要項にある「代表監督の強化方針」が公表されることなく、若手選手が代表選手として選考・決定されているのは、手続としての公正性、合理性を著しく欠くものであり、また年齢による不合理な差別と考えられ、本件決定は取り消されるべきであると主張する。

C監督が代表監督の強化方針として公表したものは見当たらないが、被申立人の2012年度事業計画における「水球について若手育成を強化のポイントとする」旨の記載、2013年度事業計画における「2016年五輪予選時に日本代表中心選手として期待される年代「1991年生まれ以降」の選手に重点をおいて選手の育成・強化を進めている」旨の記載、2012年4月に選出された日本代表選手は若手中心に選出され申立人らいわゆるベテラン選手は大半が選出されていないこと(乙5の3、乙6の4、乙7)等の事実から2012年度以降C監督の下で若手選手の育成・強化が大きな目標として設定されたものと解することができる。水球のように4年毎に開催されるオリンピック出場を目標として設定する団体球技においては若手の育成が常に重要なテーマとなり、代表選手選考にあたって、世代の交代を考えなければならないことも当然である。申立人も高校在学中に水球男子の日本代表の一員として抜擢され、その後10年間以上も日本代表に選出されてきたものであるので、若手の強化については申立人も反対しないと考えられる。2012年度の日本代表選手は若手を中心に選出されたため申立人は選出されなかったが、申立人が異議を申し立てることはなかった。本件において、代表監督の強化方針として、若手中心に強化・育成していく旨公表されることがなかったことについて、それまでの強化方針と異なる以上公表して明確にすることが望ましかったといえるとしても、前記事実等を考慮すれば若手中心の代表選手選考がなされ申立人が代表選手として選出されなかったことをもって手続として不公正であるということはできないし、また年齢による不合理な差別であり合理性を著しく欠く決定であるということもできないと解すべきである。

更に、本件決定は、C監督の作成した代表選手(案)につき水球委員会において審議の上満場一致で承認され、それに基づき被申立人の選考委員会によって代表選手が決定されたものであり、決定に至る手続に疵があったということはできない。

(4) 請求(2)の被申立人は申立人を本件競技会の日本代表選手として選出すべきであったとの主張について検討する。

申立人は、申立人が代表選手として選出されるべきであった理由として、2012年度日本代表候補選手の中で、水球選手として必要な泳力、各種運動能力のいずれをとっても申立人が上位の能力を有していたことを主張する。しかしながら、既に述べたとおり、2013年度日本代表選手は、若手を育成・強化する方針の下で、指定された競技会における選手のパフォーマンスを見て選出されることになっていたところ、C監督は、2012年日本選手権での申立人のパフォーマンスが往年のピーク時と対比して明らかに低下していると判断し、代表に選出された数人の選手と申立人を比べたときどちらが上かについて判断に迷うところがあったけれども、若手育成という強化方針に基づいて、申立人ではなく伸びしろのある若手選手を代表選手に選出したというものである(乙13)。対象試合のパフォーマンスに大きな差が見られない場合に、どの選手を代表として選出するかについては、代表監督に一定の範囲の裁量権があると解するのが相当である。上記C監督の判断は、水球に関する強化方針にしたがったものであり、合理的なものとして、本件仲裁パネルも尊重すべき決定ということができる。したがって、申立人を代表選手に選出すべきであるとの申立人の主張には理由がない。

(5) 申立人の請求(3)は、男子日本代表選手に決定した者について客観的データを示してその理由を求めるものであり、請求(4)は被申立人に対し日本代表選手選考基準の定立を求めるものである。ところで、スポーツ仲裁は、スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が行った決定についてするものとされており(スポーツ仲裁規則第2条)、その趣旨は、特段の事情がない限り、競技団体又はその機関の決定の当否について仲裁人の判断を求めるものに限ると解すべきである。本件において、代表選手の選考は、対象試合における選手のパフォーマンスを見て判断されるものとされており、代表監督に一定の裁量権が与えられているものであって代表選手決定についての数値化したデータは存在しない。したがって、請求(3)は、被申立人の決定の当否に対する判断を求めるものではなく、仲裁になじまない申立てといわざるを得ない。また、請求(4)は、競技団体又は、その機関が行った決定についての申立てということはできない。

したがって、請求(3)および請求(4)はいずれも却下する。

 

第6 結論

以上のことから、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人の請求(1)および(2)を棄却すべきものと認め、請求(3)および請求(4)を却下し、申立費用については申立人が負担すべきものと認めて、主文のとおり判断する。

 

2013年5月1日

 

                        スポーツ仲裁パネル

 

仲裁人  竹之下 義弘  

 

仲裁地:東京


別紙1

仲裁手続の経過
1. 被申立人は、2013年4月2日、「水球ワールドリーグ2013アジアオセアニア(大洋州)ラウンド」における男子日本代表選手に申立人を選出しない旨を決定した。
2. 同月24日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下「機構」という。)に対し、申立書、委任状、証拠説明書、書証(甲第1号証~第17号証)、上申書を提出し、本件仲裁を申立てた。
3. 同日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。また、機構は、事態の緊急性に鑑み極めて迅速に紛争を解決する必要があると判断し、規則第50条第1項に基づき、本件を緊急仲裁手続によることを決定した。
4. 同日、機構は、規則第50条第3項に基づき、仲裁人を1名とすることを決定した。機構は、竹之下義弘を仲裁人に選定し、「仲裁人就任のお願い」を送付した。
5. 翌25日、竹之下義弘は仲裁人就任を承諾し、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。
6. 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問期日、証人尋問申請書の提出期限、答弁書の提出期限に関し「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。
7. 翌26日、本件スポーツ仲裁パネルは、証拠調べに関し「スポーツ仲裁パネル決定(2)」を行った。
8. 同日、被申立人は、機構に対し、委任状を提出した。
9. 同月30日、申立人は、機構に対し、証拠申出書、証拠説明書(2)、書証(甲第18号証~第35号証)、上申書、事務連絡を提出した。被申立人は、機構に対し、答弁書、証拠申出等の連絡文書、証拠説明書、書証(乙第1号証~第17号証)を提出した。
10. 同年5月1日、東京において審問が開催され、証人尋問及び本人尋問が行われた。本件スポーツ仲裁パネルは、審問終了後、審理の終結を決定した。
11. 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、規則第50条第5項に従い、仲裁判断を両当事者に通知した。

以上

 



仲裁判断の骨子

仲 裁 判 断 の 骨 子
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2013-003

申 立 人  :X
申立人代理人 :弁護士 白井久明
同  高松政裕
被 申 立 人:公益財団法人日本水泳連盟
被申立人代理人:弁護士 藤井幹雄
同  望月浩一郎
同  大橋卓生
同  松本泰介


主 文

本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。
1. 申立人の請求(1)および(2)を棄却する。
2. 申立人の請求(3)および(4)を却下する。
3. 申立料金5万円は、申立人の負担とする。

理由の骨子
 申立人は、本件申立てをした理由として以下のことを主張する。公表された「2013年度水球男女日本代表選手選考要項(改訂)」(甲7)には、2013年度選手選考対象国際・国内試合として5試合が記載され、2013年度選手選考対象合宿として、「2012年度内国内強化練習」の記載があるけれども、申立人は対象試合の2012年日本選手権には出場したが、練習中に腕を骨折したため十分なパフォーマンスができなかったと自覚していたので、選考対象合宿とされていた強化練習合宿に自費による参加を申出た。しかるに、水球委員会からは、この合宿は、ベテランではない若手を対象とした強化であり、代表選手選考とは無関係である旨の回答を得た。しかし、申立人は代表選手として選考されなかった。申立人としては、この強化合宿に参加できれば、参加した他の日本代表候補を超えるパフォーマンスを示すことができたはずであり、またこの合宿は代表選手選考にとって重要であるとのA監督の発言がなされたとの参加した選手の言葉から、不当に代表選考の場を奪われたものである。以上が申立人の主張の骨子である。
 これに対して、被申立人は、2016年のオリンピックの参加を目指すチーム作りをするため、2012年2月にA氏を監督に選任し、2016年五輪予選時に日本代表中心選手として期待される年代の選手に重点をおいて、育成・強化を進めるとし、代表選手選考方法として、主要国内競技会を選手選考の場とするとの基本方針を設定した。これに基づいてA監督は若手を中心に強化する方針を打ち出し、2012年度の日本代表選手としても若手を中心に選考した。
 申立人は、2012年度の日本代表選手として選考されなかったが、若手を中心として強化する方針には賛成し、当該年度にはユニバーシアード大会もなかったことから、この被申立人の選考には納得し、異議を申し立てることはなかった。
 団体競技においては、一般的に選手の優劣を判断する決定的な基準はないのが通常であり、個々のプレー等の数値化による基準は選手の能力の一面を示すことはできても、試合中の判断力など試合を左右する要素を検討することが不可欠である。したがって、本件において前年度までの数値化を重視した方針と異なり、重要な試合でのパフォーマンスを重視して代表選手を選考することには合理性があり、このことは申立人も敢えて反対はしていないものと考えられる。
 被申立人が公表した2013年度の代表選手選考の基準とされた選考要項に規定された選手選考対象試合とされた5試合は、いずれも重要な試合と考えられ、これ自体不合理なものではない。
 問題は、2013年度選手選考対象合宿との記載が代表選手選考にとって重要な要件であるかどうかである。この点について、ベテランの実力は把握しているので、試合に出る機会の少ない伸びしろのある若手について強化練習を行ってその結果を見て選考するため、合宿も選考の対象とした旨のB水球委員会委員長の言がある。代表選手選考については、主要競技会の中で行う旨2012年9月21日の水球委員会で説明がなされ、選考要項が作成されたこと(乙6の8)、申立人からの問い合わせに対し3月の合宿は強化合宿だが選考の場ではないとの趣旨のC水球委員会副委員長の発言(乙14)、2012年12月22日の強化コーチ会議での原則競技会での選考が中心であるとのA水球委員会委員長の発言(乙9の2)、2013年2月5日付オリンピック特別対策強化戦略プラン(乙4の1)の要約として、目標達成のため「主要国内競技会を選手選考の場として位置づけた競技会強化の推進」が総括として最初に記載されていること等から、選手選考対象合宿というまぎらわしい表現をしていることに問題はあるが、合宿に参加することが代表選手選考の要件であることを示すものは他に存在しない。
 申立人が選手選考の対象試合とされた日本選手権において負傷のため十分なパフォーマンスを発揮できなかった申立人の主張に対しては、東日本リーグにおける申立人のプレーを見て日本選手権でのプレーと対比するようにB水球委員会委員長がC監督に指示するなど、申立人の対象試合でのパフォーマンスについて一定の配慮もしている。
 以上のことから判断すると、被申立人の決定がその制定した規則に違反しているということはできない。
また、手続としても、A監督が代表選手(案)を作成し、水球委員会において満場一致で承認され、それに基づき最終的に日本水泳連盟の選考委員会により代表選手が選考されたもので、決定に至る手続に瑕疵があったということもできない。
よって、本仲裁パネルは主文のとおり判断する。

2013年5月1日

スポーツ仲裁パネル
仲裁人 竹之下 義弘

仲裁地 東京都





以上は、仲裁判断の謄本である。
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
代表理事(機構長) 道垣内正人
※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。


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